川を越え、雨に打たれ、風にあおられて【斜里岳】

女満別空港の広々としたお土産物・ショッピングエリアの様子

時間だけはたっぷりある。空港内の土産物エリアを巡回し、北海道の資本主義の結晶たちを眺めることにした。

「白い恋人」や「ROYCE'(ロイズ)」といった盤石の布陣が、帰路を急げない旅人の財布を虎視眈々と狙っている。

女満別空港のお土産物店は、写真に写っている範囲がほぼ全てだ。あっちこっちウロウロしなくて済むのがありがたい。しかし一方で、地方空港にしてはえらく充実した店舗数だ。これこそが北海道の強さだろう。地方空港とはいえ確実に客は来るし、誰もが買い物をしていく。なぜなら、そこには抗えない魅力を持つ食べ物が並んでいるからだ。

女満別空港で購入した赤いサイロ、三方六、ぽてコタンなどのお土産

すでに本日の戦利品は確保済みだ。大人気銘菓「赤いサイロ」を筆頭に、柳月の「三方六」、カルビーの「ぽてコタン」を買い込んだ。

バウムクーヘンの三方六はいしが食べたことがないというので選んだのだが、実は「赤いサイロ」に関しては僕にとって初耳だった。妻からの指定があったため探して買ってみたのだが、どうやら相当な人気商品らしい。

この時は「へえ、人気なんだな」なんてヌルいことを思っていたのだが、のちにこれが「入手困難な幻の大人気スイーツ」であることを知る。これ以降も毎年夏に北海道を訪れているが、新千歳空港では本当にまったく手に入らない。取り扱いがあるわずか数軒のお店を行脚しても、影も形もないのだ。入荷即完売がデフォルトの品だ。

そんな激レア商品が、ここ女満別空港では日没後もしれっと売られているのだから不思議なものだ。しかも、訪れたのは土曜日だというのに。

帰宅後、夫婦ふたりでこの「赤いサイロ」を食べて仰天した。うまい、うますぎる。なんだこの濃厚でしっとりとしたチーズケーキは。完全に油断していた。「北海道に行くたびにマストアイテムとして買わなくちゃ!」というレベルの衝撃だ。しかし皮肉なことに、これ以降、僕らがこのお菓子に出会う機会は二度と訪れていない。いつかまた、どこかで会いましょう。

女満別空港の立ち食い寿し 縁戸(えんど)の店舗外観と本日のおすすめ看板

お土産を確保したところで、次は夕食の検討に入る。立ち食い寿司「縁戸(えんど)」の暖簾をくぐるか否か。「本日のおすすめ」に躍る「網走産キンキ」の文字が、僕の食欲を激しく揺さぶってくる。

手元には、航空会社から支給された1,000円分の飲食券という軍資金がある。この存在のせいで、急に脳内の判断基準が狂い始めていた。

「せっかくだから軍資金を使っていいモノを食べさせてもらおう」という贅沢な気持ちが働く一方で、「食事のレベルをあえて抑えて、食費を浮かせたぞ!としめる」という貧乏性の選択肢もある。実に悩ましい。

女満別空港のスープカレー店 奥芝商店の店舗外観と本気のカレーの文字

隣にはスープカレーの名店「奥芝商店」。「本気のカレー」という挑発的なコピーに、僕の胃袋はときめく。

うーん、どうしようかなあ。

スープカレーもさっきの寿司屋も魅力的だが、僕としてはできるだけ搭乗案内がかかるまで、お店の中で時間つぶしをしたいのだ。立ち食い寿司での長居は粋ではないし、スープカレーもサクッと食べて出るのが基本で、長居は難しそうだ。

女満別空港2階のレストラン ピリカ店舗外観

そこで目をつけたのが、こちらの「レストラン ピリカ」だ。

豚丼、ラーメン、カレーと、北海道グルメの総本店のような鉄板のラインナップが揃っている。

こういったテーブル席主体のレストランであれば、比較的長居ができそうだ。しかもメニューをよく見ると、「ソフトクリーム300円」の文字がある。これなら最悪、デザートを追加して粘るという戦術も可能だ。

遅延の状況からして最低1時間以上は時間を潰す必要があるので、ここならお店の迷惑にならない範囲で、ゆっくり飲み食いできそうだと判断した。

本当はクレジットカード特典のラウンジがあれば直行するのだが、残念ながら女満別空港にはカードラウンジが存在しない。一般エリアの飲食店選びが死活問題になるのだ。

レストラン ピリカの食品サンプルショーケース

店に入り、改めてメニューを精査する。「ホッケフライカレー」という珍味に惹かれる一方、「北見玉葱」を冠した塩ラーメンも捨てがたい。1,000円という軍資金をどこに投下すべきか、僕は不意に訪れた自由時間の使い道について、脳内で深刻な作戦会議を繰り広げていた。ああ、目移りする。

レストラン ピリカの塩ラーメンとミニ海鮮丼のセットメニュー表

そこへ追い打ちをかけるように現れたのが「セットメニュー」の文字だった。ラーメンにミニ海鮮丼を付帯させるという、炭水化物の過剰摂取を前提とした魅惑の仕様。1,810円という空港価格に一瞬怯むが、「せっかく北海道に来たのだから」という魔法の言葉が、僕の財布の紐と理性を一瞬で緩めていく。

だって、北海道の旅の締めに「ミニいくらサーモンご飯」だなんて提案されたら、「ミニだし、ちょっとくらい贅沢してもいいんじゃないかな」と思わざるを得ないだろう。

「お酒と一緒に とりあえず珍味一品」と題された、塩辛じゃがバターや松前漬けなどのおつまみメニュー表。

「とりあえず」という言葉の誘惑。このお店、よく見ると海鮮居酒屋としても十分に通用する料理ラインナップを誇っている。

塩辛じゃがバターに松前漬け、タコわさび。酒飲みの急所を的確に突いてくる。フライト前の僅かな時間に、これらを肴に一杯引っ掛ける旅人はたくさんいるのだろう。お酒が飲めるひとが少し羨ましくなる。

レストランピリカのアレルゲン表記一覧表。各メニューに含まれる卵、乳、小麦などのアレルギー成分が細かくチェックされている。

メニューの隅で驚かされたのは、このアレルゲン表記の徹底ぶりだ。一品一品に対し、緻密に定義された成分表が用意されている。僕はその企業努力に勝手に感銘を覚え、思わずシャッターを切ってしまった。東京に残してきた長男のタケ(岳大)には食物アレルギーがあるため、この一覧表を見ながら、自然と2歳の息子の顔が頭に浮かぶ。

今、LINEで連絡が取れれば「自宅で夕ご飯を食べている頃かな」などと確認できるのだが、あいにく今はスマホが壊れている。

そう、いつ出発するかわからない飛行機を待っている間、現代人にとって最大の時間つぶしツールであるスマートフォンが、今回の僕はまったく使えないという致命的な問題を抱えていた。ただただ、目の前の空間をボンヤリと過ごすしかないのだった。

提供された塩ラーメンとミニいくらサーモン丼のセット。ラーメンにはレモンと刻み玉ねぎがトッピングされている。

結局、僕が選択したのは「オホーツク塩ラーメンとミニ丼のセット」だった。透き通ったスープに添えられたレモンの黄色が、旅で疲れた胃袋に清涼感を約束してくれる。いくらとサーモンの親子共演を眺めつつ、北海道の思い出を胃袋に刻み込む作業。これこそが、僕にとっての旅におけるPDCAの『C(評価・確認)』にあたるわけだ。

ガラス容器に盛られたコーヒーゼリーパフェ。ソフトクリームの上にコーヒー豆と粉末がトッピングされている。

最後は食後のデザートで締める。アフォガードだったかコーヒーゼリーパフェだったか、詳細は失念してしまった。

それでも、手元にある1,000円の食券のおかげで、せっかくだからと気兼ねなく頼めたごちそうだ。空港レストランでデザートまで頼んでゆっくりと過ごす贅沢。ああ、くつろぐなあ。予期せぬトラブルから始まった長い時間を使って、旅の終わりをじんわりと実感した。

(つづく)

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
    スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
    それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。

  • zennさん>
    富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
    そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。

    先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。

    もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!

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