川を越え、雨に打たれ、風にあおられて【斜里岳】

白い紙皿に盛られた、たっぷりのもやしと豚ホルモンの炒め物。

19:15
今夜のメインディッシュその1、ホルモンともやしの炒め物だ。

ホルモンはもちろん、味噌精肉店で仕入れた「豚丸ほるもん赤丸」と「白丸」。
合わせて400グラムという暴挙に出た。これを一人で片付けるには、相当な「顎力(あごぢから)」が要求される。
山に登りに来たはずなのに、登頂前に顎が筋肉痛になるってどういう仕様だ?

ノンアルビールのツマミとして優雅に、なんて余裕はない。のんびり構えていると、自慢の脂分がみるみるうちに白く固まっていく。
それだけ脂がノリにノっている証拠なのだが、とにかくスピード勝負だ。でも、柔らかくてふっくら。なかなかどうして、これが美味い。

うん、これはいい。実に見事な味だ。

白も赤も甲乙つけがたいが、個人的には「白」の方がホルモンのポテンシャルを引き出せていた気がする。
たかがホルモン、されどホルモン。この界隈に再び出没することがあれば、間違いなくリピート確定だ。
(なんなら東京の家族にも食わせてやりたいが、今は僕の胃袋が優先だ)

北海道清里町のご当地麺「こじじょそば」のパッケージ表面。

19:15
続いて、マルワ製麺が放つ「どじょうそば」。
パッケージの『かみしめる程、口中に広がる』というコピーが、食欲を煽ってくる。

どじょうと言えば、あの柳川鍋とかの小魚だよな。一瞬、麺の中にアイツが練り込まれているのかとギョッとするが、見た目は至って普通の蕎麦。
なんでわざわざ「どじょう」を名乗るんだ?

まさか、粉末状のどじょうが隠し味に・・・なんて疑いながら裏面を凝視したが、そんなマニアックな配合はなされていなかった。
「うなぎパイ」的なノリを期待(あるいは警戒)したのだが、完全な空振りだ。

調べてみると、なんのことはない。どじょうのように太くて短い見た目をしているから、というネーミングらしい。

清岳荘のテラスで、ランタンの灯りの下、骨付き肉を食べる男性と並んだノンアルコールビール缶。

19:17
霧に包まれた清岳荘のテラス。誰もいない暗闇で、一人中山商店の半身揚げにかじりつく。

冷静になれば、ホルモン400グラムで胃袋のキャパは限界突破しているはず。なのに、買い出しのテンションでつい「あれもこれも」と積み上げてしまった。この物欲、なんとかならんのか。

しかし、ノンアルビールが驚くほどはかどる。4缶ストックしておいて正解だった。
これがもし1缶足りなかったら、僕は今頃、清里の夜空(霧で見えないけど)に向かって絶望を叫んでいたことだろう。

写真で見るとまだ明るそうだが、LEDランタンを灯している時点で、周囲はすでに薄暗くなっている。

紙皿に盛られた、具沢山のこじじょそば.ホルモンやもやしと和えられている。

19:43
先ほどのホルモン炒めの残骸に、どじょうそばを力技でブチ込む。
「清里風ホルモン焼きそば(勝手に命名)」の爆誕だ。

ビジュアルはカオスそのものだが、味はなかなかどうして、これが正解。
ホルモンから溢れ出した罪深い脂と旨味を、蕎麦がスポンジのごとく全吸収してくれるのだ。

完食。大満足だ。最高すぎる。ああ、これで天気が良ければなあ!

ちなみに、脂ギトギトのホルモンを戦わせた代償として、クッカーの中は見るも無残なベッタベタ状態。
山荘の水場でこの汚れを落とすのは至難の業なので、そのまま東京まで強制送還することにした。

寝床に潜り込み、改めて明日のルートを予習する。

標高680メートルの清岳荘をスタートし、林道を抜けて旧登山口へ。
そこから下二股(845メートル)へ向かい、ここからが本番だ。
120分に及ぶ沢沿いコース。渡渉を繰り返し、滝を巻き、時には直登する。
登りきった上二股(1,230メートル)から、胸突き八丁、馬の背を経て、1,547メートルの山頂へ。
帰りは新道の尾根コースを経由して、熊見峠から下二股へ急降下する・・・という、文字面だけでもお腹いっぱいな行程だ。

コースタイムは上り4時間、下り3時間40分。
だが、『沢登り主体のため所要時間に個人差が大きい』という、なんとも不穏な一文が添えられている。

注意書きにはこうある。
・増水がなければ登山靴+スパッツでOKだが、足首まで水に入ることも多い
・岩をピョンピョン飛ぶのは危険!毎年転倒者が出ています

さあ、明日の予報は安定の雨だ。
ここ一週間、温帯低気圧が北海道に居座っていたせいで、沢の増水は確実。
それなりの覚悟を持って挑むしかなさそうだ。ご安全に!

2023年07月01日(土) 2日目

天気予報によれば、雨のピークは12時から21時。

だが、これは海沿いの予報。山の天気はもっとせっかちだ。
ワンチャン雨を回避できるなんて夢は見ないが、被害は最小限に食い止めたい。
特に増水が怖い沢エリアは、雨が本降りになる前に抜けておくのが鉄則だ。
というわけで、まだ世の中が寝静まっている朝3時台に起床。身支度を開始した。

昨晩、遅くにチェックインしてきた連中はまだ夢の中。羨ましくなんかないぞ。

昔の僕なら、「朝3時から活動なんて正気の沙汰じゃない」と切り捨て、5時まで意地でも寝ていたはずだ。
そんな僕を動かすのだから、この空模様の威圧感は相当なものだということがわかる。

それに、慣れない沢登りでコースタイムを大幅にオーバーし、「帰りの飛行機に間に合わなかったァァァ!」と空港で膝を突く未来だけは避けたい。
空港までは果てしなく遠いんだ。余裕を持って動くことが、僕に残された唯一の生存戦略だ。

スマートフォンの天気予報画面。斜里岳の登山指数がCで、強風が予想されている。

登山屋の定番サイト「てんきとくらす(通称:てんくら)」。

予報を提供してくれる山域が多いかわりに、予報はシステムによる自動算出が主体だ。そのせいか、精度については「あれっ?」ということがたびたびある。
「登山指数A」でも天気が良くないことはあるし、「登山指数C」でも意外と行けちゃうこともある。なので、信じすぎないことは大事。

ところが、今日の斜里岳、朝9時だけ「登山指数A」を叩き出しているじゃないか。
これが本当なら、そのタイミングで山頂を拝むのがベスト。信じる者は救われるかもしれないので、その線を狙ってみることにする。

(ちなみに後日、予報士がガチで予想する有料サービス「山の天気予報(通称:ヤマテン)」とも契約した。今は両方の良いとこ取りをしている。てんくらの風速予測は、僕の肌感覚に合う気がする)

雨で濡れたコンクリートの通路。水溜まりに雨粒が落ちて波紋が広がっている。

04:25
で、だ。山荘のドアを開けた瞬間、期待を裏切らない「見事な雨」がお出迎え。
はい、今日の雨天決行、確定演出です。

まあ、いい。途中で降り出されて、慌ててカッパを着る手間を考えれば、最初からフル装備で挑める分、マシだと思おう。
そう自分に言い聞かせないとやってられない。

サポーターでしっかりと固定された足首の様子。

04:36
出陣の儀式。

前回の巻機山で痛めたわけではないが、右足首をゴムバンドで固める。
今日の敵は滑る岩と増水した沢だ。一瞬の油断で「グギッ」となれば、そこですべてが終了する。
転ばぬ先の、なんとやらだ。

雨の車内でレインウェアを着たまま肉を食べる男性。

04:46
車内で出発前の朝食。もう雨ガッパを着込んでいる。

沢沿いで優雅にメシを食うなんて展開は、この天気じゃ100%ありえない。車内で済ませておけば、ゴミも置いていけるし一石二鳥だ。

チョイスしたのは、昨日「コリン」で買ったチャーシュー丼。昨夜からずっと肉しか食べていない気がするが、エネルギー源としては申し分ない。
ただ、冷え固まった脂身が口の中でベタつくのだけが惜しい。7月の北海道、明け方はなかなかに冷えるんだな。

(つづく)

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
    スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
    それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。

  • zennさん>
    富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
    そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。

    先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。

    もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!

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