
06:20
登山道に突如として、しめ縄が現れた。これまでの道中、鳥居はなかったはずだ。
「ここは神域ですよ」と、足を踏み入れた者に簡易的に示しているのだろう。
斜里岳はアイヌ語で「オンネヌプリ(老いた山)」と呼ばれ、古くから神聖視されてきた歴史があるという。現在は山頂近くに「斜里岳神社」が鎮座しているため、その管轄ということになる。
アイヌの信仰を神道で上書きする、という構図には少しばかり気にはなる。
いずれにせよ、しめ縄の出現は僕が斜里岳の深部へ至った証拠だ。
雨は相変わらず鬱陶しいが、歩くのはなかなか楽しい。
変化に富んだ道は、僕のような飽き性にはちょうどいい刺激になる。

06:21
「二股」と書かれた黄色い看板が鎮座する分岐点に出た。いわゆる「下二股」と呼ばれる場所だ。
ここで旧道と新道が分かれることになる。
「おっと、まだ下二股なのか」と思わず独り言が漏れた。
これまでの渡渉がかなりガッツリしたものだったので、てっきり随分と高度を稼いだつもりでいたのだ。
だが、斜里岳登山の核心部はここから先。
「下二股までで危険を感じた人はここで帰れ」と、昨日見た解説には書いてあった。
幸い、まだ危険は感じていないのでもちろん先へ進むが、それにしても「まだ下二股か」と感嘆してしまうほどここまでの歩みは濃厚だった。
ちなみに、登りは沢沿いの旧道、山頂からの下りは尾根沿いの新道を使って周回するのがこの山の仕様だ。旧道は下り道としては不適切、ということで新道の利用が強く推奨されている。

06:25
再び沢を渡る。
相変わらず岩肌が異様に赤い。
手前と対岸の枝にそれぞれピンクテープがぶら下がっている。
それを目印に、粛々と川を渡っていく。
今のところ、他の登山者と抜きつ抜かれつの展開にはなっていない。マイペースな山歩きができるのは、とても気分がいい。渡渉に躊躇している人に詰まったり、後ろからハイペースな個体に煽られたりするのは、僕の望むところではないからだ。

06:26
目の前に現れたのは、斜面を勢いよく滑り落ちる滝だ。
水底の石がいっそう色濃く赤く染まり、白い飛沫とのコントラストが鮮烈に映える。
下二股から上二股の間は、こうした滝が連続して現れるボーナスタイムだ。
天気が良ければもっと楽しめたのだろうが、雨足が強まる予報が出ている。
ゆっくりと滝を愛でている余裕はない。
「おっと、滝ですね」と立ち止まって写真を撮り、すぐに足を動かす。

06:27
滝の名は「水蓮の滝」。
木の幹を輪切りにした看板が、なんとも言えない温かみを感じさせる。
こうした名前入りの看板は、地味に重宝する。
登山中に「とりあえず記録だ」と撮った写真は、後で見返すと「これはどこの何だ?」と迷宮入りすることが多いからだ。

06:29
今回はあくまで登山だ。「沢登り」ではなく「沢沿いに登る」ということになっている。
だから滝があるからといって、その脇の岩を無理によじ登る必要はない。脇にある巻き道を使って、淡々と高度を上げていく。
滝は遠目に見る分には美しいが、それはつまり強烈な高低差の現れだ。その落差分だけ、自分の足で標高を稼がなければならない。
つまり、普通に疲れる。

06:30
先ほど見上げた水蓮の滝の上部に出た。
滝の勢いに比べると、上流は驚くほど穏やかな小川に見える。同じ川だというのだから、不思議なものだ。
これくらいの水量なら、多少増水しても渡渉は問題ないかな・・・と考えてしまう。だが、場所によってはそうもいかないのだろう。
この登山の後日談になるが、斜里岳では2025年7月には川の増水で14人が立ち往生し、ヘリ2機で救助されるという遭難が起きている。
「下山不能」になったということは、登山口から下二股の間での出来事だろうか。
川の増水は急激にやってくる。晴れていても急に、なんてことはまず起きない。
雨が降れば増水する。当たり前すぎる事実だが、それが山の仕様だ。

06:31
下二股から上二股の間は、全体の水量は減っているが沢は深い。
随所に滝が姿を見せる。

06:32
これだけの水量を誇る川だが、当然ながらどこかに水道管が埋まっているわけではない。すべては斜里岳の頂付近に降った雨や、冬の雪がもたらしたものだ。
あと2時間もすれば辿り着くような山頂付近から、これほど潤沢に水が湧き出し続けている。
自然のシステムというのは、なかなかどうしてよくできている。

06:34
崩落した巨大な岩が川を覆い、暗渠のようになっている場所もあった。
(つづく)

コメント
コメント一覧 (2件)
何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。
zennさん>
富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。
先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。
もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!