
16:14
これぞ北海道、という一直線の道が続く。
しかし天気はあいにくの雨だ。
からっと晴れていれば、高揚感が高まる光景なのだろう。だがこういう天気だと、気持ちがどうにも盛り上がらない。おかげでアクセルを踏みすぎることなく、黙々と距離を消化していく。
退屈だとか、眠くてふらふらするという状態にならなかったのは幸いだった。ここで居眠り運転でもすれば、冗談抜きで取り返しのつかないことになる。
なぜこれほど目が冴えているのだろう。
考えてみれば、「スマホがほぼ壊れた。これからどうすればいいんだ」という緊迫状態でソワソワしており、眠気を感じる余白がなかったからだ。不安は時に、どんなカフェインよりも効果があるらしい。

16:25
「えきばしゃ」と書かれた看板を掲げる建物があった。
よく見ると「やむべつ駅」という看板も見える。駅のホームらしきものも確認できた。
スマホが機能していないので、詳細を調べようがない。カーナビを見ると、たしかに「JR釧網本線 止別駅」がここにある。止別と書いて「やむべつ」。これは初見では読めない。
それにしても「えきばしゃ」とは何だ。営業中と書かれた赤いのぼりが、雨の中で所在なげに立っている。
後で知ったのだが、ここは駅舎を利用したラーメン店なのだという。これは実に惜しいことをした。
後日、写真を調べてみると非常に美味しそうなラーメンだった。「駅舎でラーメンを食べる」という体験の希少性はもちろんだが、純粋にこの場所で食事をしてみたかった。
・・・と、スマホをいじりながら後日考える。やはりスマホが壊れると、旅の選択肢が極端に狭まる。SNSから距離を置いているつもりの僕でさえ、この不自由さには参ってしまう。

16:34
国道244号線を避け、できるだけ海に近い道を走ることにした。
オホーツク海を眺めながらのドライブを期待していたのだが、実際には海にはまったく近づけなかった。砂丘や防風林が視界を遮り、海を拝むことが叶わない。
わざわざ国道を逸れた意味がなかった。もっとも、信号がない道なので、どちらを通っても所要時間に大した差はないのだろうけれど。
そんな海沿いの道が国道と合流するのが「浜小清水」だ。
小清水、という地名には聞き覚えがある。昨日の夕方、エーコープで食材を買った場所だ。内陸に町役場がある一方で、海沿いも小清水町なので「浜小清水」という名前がついているらしい。
ここには道の駅がある。あいにく改装中のようで、無粋な鉄骨の足場が組まれていた。JRの浜小清水駅も兼ねている便利な施設のようだ。

16:50
道の駅の近くの丘に、白いピラミッドが建っていた。オカルト雑誌「ムー」のロゴを連想させる、というのが僕の第一印象だった。
フレトイ展望台、という名前らしい。ここに行くには、少しばかり坂を登る必要がある。
斜里岳に登った後だというのに、目の前の小さな坂でさえも「面倒だ」と感じて断念した。今思うと、なんと勿体ないことをしたのだろう。坂がきついと感じた以上に、下山後の億劫さが勝ってしまった。
足の疲労もあるが、何より濡れた靴下と靴を再び履くという工程が、今の僕にはハードルが高すぎた。できるだけ裸足のままでいたかったのだ。
「どうせこの先、オホーツク海を見る機会はあるだろう」
そう高を括っていたのだが、結局ここで立ち寄らなかったことで、今回の旅で海をまともに見る機会を失った。
天気が悪くても、「オホーツク海を見た」という事実だけは手に入れておきたかった。斜里岳の頂上からも海は見えなかったのだから。

16:34
道の駅の傍らに、新しい建物がある。小清水ツーリストセンターとあるが、それ以上にモンベルのロゴが目立つ。ここはモンベル小清水町店だ。
大山の登山口など、地方の意外な場所に出店するのがモンベルのスタイルだ。都会の一等地にもあるが、地方に行くと「ここで商売が成り立つのか?」と驚くような場所で見かける。アウトドアを楽しむ層が集まる場所ならどこでも店は成り立つ、という戦略なのだろう。
それにしても、建物の外壁にモンベルのロゴを3つも掲げるのはいかがなものか。やりすぎだ。もっと控えめにすればいいのに、と思うのだが、ウェアのデザインと同じく、これが彼らの自信のあらわれなのだろう。

16:35
店頭でお馴染みの「モンベルベア」とツーショット。40万円ほどで販売しているらしいが、もし買ったとしても、自宅でドロップキックやバックドロップの練習台にされるのが目に見えている。
ふと気づくと、写真に写っている僕の肌着もウィンドブレーカーもモンベル製だった。もう少し他のブランドも混ぜたいのだが、価格とクオリティ、そして店舗へのアクセスの良さを考えると、結局ここに行き着いてしまう。
趣旨は異なるが、この圧倒的な合理性に対抗できるのはユニクロくらいのものだろう。僕は完全に、モンベルの戦略に嵌まっている。そしてそんな僕が、北の最果て地のモンベルに来た、ということにちょっとした感動を覚えてしまっている。ちくしょう、嬉しいけどちょっと悔しい。
(つづく)

コメント
コメント一覧 (2件)
何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。
zennさん>
富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。
先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。
もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!