
10:38
新道、と呼ばれる熊見峠を経由する尾根道を進む。
見晴らしがよいはずの尾根道だが、遮るものがない分、風と雨の影響をダイレクトに受ける。
修行かこれは。
先ほどから、「もう見ない」と決めたスマホを未練がましくチラチラ見てしまうのだが、いよいよ電源が入らなくなってきた。
たまに機嫌が良いと入るが、基本は沈黙。こりゃあ、本格的に壊れたな・・・。
でもそれも納得の、雨だ。
スマホが壊れたことについては、一ミリも納得していないけど。
愛機はGoogle Pixel 4a。
「生活防水くらいは付いてるだろ」と高を括っていたのだが、帰宅後に震える手で調べたら、なんと一切の防水に非対応な機種であることが判明した。
完全なる、僕の勘違いだ。
防水ケースの中で、まるで金魚を飼っているかのように水没状態にあったのだから、無事でいられるわけがない。
自業自得という言葉が、雨と一緒に体に染みる。

10:40
霧の中に、一筋の踏み跡が浮かび上がる。
ハイマツが斜面を埋め尽くし、風に激しく揺れている。
道はゆるやかなので、無理やりペースを上げる。
景色は「真っ白」という名の虚無しかないのだから、ひたすら高速移動する以外にやることはない。
まずは、1,250メートルピークまで一登りだ。

10:46
1,250メートルピークを通過したと思ったら、今度は一気に50メートルほど標高を下げ、また30メートル登り返すという仕様。
サクッと下りたかった身としては、この予想外の登り返しが地味に効く。
なんだ、まだ本格的な下りじゃないのか、と独り言が出る。

10:54
ハイマツ帯を抜け、少し視界が開けた先に「熊見峠」の看板を見つけた。
峠?
普通、峠といえば「尾根の低い場所」を指すものだ。
だがこの熊見峠、どう見ても山のピークである。

10:55
もともと峠は写真映えしない場所が多いが、ここは妙に開けている。
ハイマツが元気すぎて視界はゼロだが、かつてここからクマを眺められたという逸話には納得だ。
それにしても、峠らしくない峠だ。
というか、これやっぱり峠じゃないだろ。

11:00
熊見峠で証拠写真をおさめ、先を急ぐ。
ここから沢まで一気に下るのだから、樹林帯の激下りが始まる・・・と覚悟していた。
しかし、登山道は案外ゆるやかに続いていく。
地図上の「等高線を垂直にぶち抜く急坂」は、もう少し先のようだ。
ただ、地面は期待を裏切らないドロドロのベタベタである。
歩くたびに、靴が泥に吸い込まれていく。
さらに、地面には木の根や幹がこれでもかと露出している。
泥地獄への対策として人工的に置かれたものかもしれないが、「ぬめる泥」と「滑る木」の極悪コンボは、歩行の難易度を跳ね上げる。

11:13
樹林帯の密度が増し、今度は横向きに張り出した幹が行く手を阻む。
通過するたびに強制的にスクワットを強いられる。
これが地味に、僕の大腿四頭筋にダイレクトなダメージを与えてくるのだ。
または、気づかずに頭を強打するか。ヘルメットは今回初めて購入し装着したギアだけど、「買ってて良かった」とつくづく感じた。

11:13
続いて、笹の洗礼だ。
葉っぱに溜まった雨水が、歩くたびに体へと叩きつけられる。
すでに僕のレインウェアは飽和状態で、透湿どころか、外からの水を積極的に迎え入れる「ただの布」に成り下がっていた。
これが極寒の風吹き荒れる日なら、迷わず低体温症でアウトだろう。
北海道の雨、となると、どうしてもあのトムラウシの事故が頭をよぎるが、今はまだ命の危険を感じないだけマシだ、と自分を納得させる。

11:30
標高を下げてくると、泥の中に岩が混じり始めた。
「ズルっと滑る場所」と「ガチッと止まる場所」がランダムに出現するため、非常にリズムが取りにくい。
写真では伝わりにくいが、かなりの斜面を力任せに下っていく。

11:49
ついに、旧道との合流地点である「下二股」に戻ってきた。
熊見峠から約55分。
雨に打たれ続け、思考はすっかり停止気味だったが、こうした案内を見ると、少しだけ現世の意識が戻ってくる。
あとは、ひたすら登山口を目指すだけだ。
ようやく、終わりが見えてきた。
・・・あっ、いけない、ここから先は渡渉が連続する場所だった。往路と比べて水位が上がっているはずだけど、大丈夫かなあ。まだまだ難所はこれからだ。
(つづく)

コメント
コメント一覧 (2件)
何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。
zennさん>
富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。
先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。
もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!