
08:03
はっはっは、この光景を見て笑ってしまう。
登山道が川になっているのか、川が登山道になっているのか。
川が登山道そのものだ。
V字谷の底を歩くなら、川が登山道でも「まあそんなものか」と思う。でも、この道はなんだ?
まるで里山歩きの、近くには畑や果樹園がありますといった風情ののどかな雰囲気なのに、川だ。
そして登山道だ。収穫したばかりのミカンを積んだ軽トラが走っていそうな景色なのに。
これまで、斜里岳と斜里川は七変化を見せてきた。その最終形態がこれだ。
びっくりしたなあ、こんな川、そして登山道、見たことがないぞ。
だって、石がゴロゴロしているんじゃなくて、川底が一枚岩なんだから。
「川を遡上するなんて、龍になった鯉のようで縁起が良い。立身出世まちがいなしだ」という比喩でこの光景を最初は眺めていたが、そんな昔話を比喩に持ち出すのが勿体ない。
目の前の景色は、それくらい特殊だ。

08:04
川の水は急速に細っていった。
地下水脈の湧出口がどこかにあったのだろう。
あ、川がなくなったな、と思ったところに、紙垂(しで)が見えてきた。
雨に濡れ、重たく垂れ下がっている。
あれっ、もう一度「ここは神域ですよ」宣言?と思ったこの場所が、「上二股」だった。
今まで登ってきた沢沿いルートの終着点となる。
沢沿いルートは「旧道」で、「新道」は熊見峠を経由する尾根伝いの道だ。
危険箇所とされる沢をクリア、ということで少しほっとする。
でもまだ山の中腹。
ここから標高を300メートル稼がなければならない。
稜線に出るまで、標高差は200メートル。
まだまだ先だ。
川の水がなくなっただけで、登りはまだつづく。

08:07
岩の表面に踊る赤いペンキの印が、かろうじてここが正規ルートであることを教えてくれる。
川というほどではないが、まだここでも岩の隙間を水が流れている。
雨水なのか、それとも元々川なのかは、わからない。
岩がゴロゴロしているので、気持ちよく歩ける道ではない。

08:12
さっきとほぼ同じ光景の写真だけど、敢えて撮っているのはなんでだろう?と写真を後から見返していて、不思議だった。
でも、よくこの写真を見て、当時の感動を思い出した。
「ついに川がなくなったぞ!」という喜びでこの写真を撮ったのだった。
見よ、水がどこにもない。
雨が降っているのでドライな環境ではないのはあいかわらずだが、これはちょっとした感動だった。
ただその分、川の水に常時さらされて小さい石がゴロゴロ下流に押し流されるプレッシャーがない道だ。
おかげで道は大小さまざまな石でガレていて、歩くのがちょっと面倒になった。
喜びと面倒くささは常に等価交換らしい。

08:12
振り返ると、展望が開けてきた。
だけど、何も見えていない。
この世界は完全に乳白色なんや!
羅臼岳に登ったときのことを思い出した。

あれも、オホーツク展望とかなんとかいって、天気が悪くて何にも見えなかった。
お陰で、ヒグマに怯えながら登ったという記憶しか残っていない苦行だ。
今日も今日とて、僕はデジャヴのような乳白色の世界に包まれている。

08:14
「胸突き八丁」の看板が見えてきた。
ここから馬の背と呼ばれる稜線までの間が、きつい傾斜になるとのこと。
国土地理院の地図に描かれている等高線を見ると、これまでの沢ルートの傾斜と比べて、ここが特にキツい傾斜というわけではない。
しかし、胸突き八丁と言われるゆえんをまざまざと思い知ったのは、足場のガレだ。
足場が悪いので、歩くのに力が入ってしまう。
そのため、見た目の斜度以上に疲れるのだった。
これまでの登りで足に蓄積された疲れが、ここに来て本気をだしてきた。
だいたい、なんだよこの登山道。
道の両側は土なのに、なんで歩くところだけ石なんだよ。
さっきみたいに、一枚岩でサクサク歩かせてほしい。
嫌がらせか。・・・いや、これも登山の醍醐味というやつか。

08:18
霧はさらに密度を増し、ホワイトアウト寸前の状況へ。
当時、疲れて疲れてたまらん、という状況だったのはこういう写真からもよくうかがえる。
サクサク歩けているうちは、あんまり振り返って写真を撮ろうとはしない。
疲れると、足が止まってしまうのと、自分のこれまでの成果を見て自信を付けたいのとで後ろを振り返り、写真を撮る。

08:19
だんだんと登山道の両脇の木々が迫ってきた。
ウコンウツギの群生をかき分けながら歩く。
標高が上がってからのほうが、植物が身近になるという逆転現象。
森林限界はまだか?
この山は標高が低い(1,547メートル)とはいえ、北に位置する山なので森林限界が低いはずだ。
早く「抜けた」実感がほしい。

08:21
胸突き八丁ですなあ、とぼやきながら坂を登る。
さっきまでは滝を見ながら、「この滝の上には何があるのだろう」という期待感を込めて足取りが軽かった。
でも今は、ひたすら標高を稼ぐ時間帯。
見ての通り、標高を稼ぐからといってつづら折れの道にはになっていないので、バカ正直にまっすぐ登っていく。
斜里岳、なかなかどうして、不器用な山だ。

08:28
ガスのカーテンがほんの一瞬、薄くなった気がした。
その隙間から、うっすらと山の肩のような気配が覗く。
あれかな?斜里岳山頂。
近いのか遠いのか、ここからだとよくわからない。
地図(=スマホ)を確認する余裕がないため、分岐でもない限りは地図は見ない。
前へ、前へ。
(つづく)

コメント
コメント一覧 (2件)
何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。
zennさん>
富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。
先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。
もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!