川を越え、雨に打たれ、風にあおられて【斜里岳】

赤茶色の岩盤を流れる澄んだ水と、頭上を覆うカエデの青葉の対比が美しい渓流の風景。

06:06
登山道は川にぴったりと並走しているわけではない。
川から離れたりまた近づいたり、を繰り返す。かと思えば、突然真正面から川が現れたりする。

道が川にぶつかったとき、僕らは試される。
「この目の前の川を渡って向こう岸に行け」という意味なのか、それとも「川の中を歩け」という意味なのか。
とっさには判別がつかない。
渡渉するにしても、対岸のどこに道が続いているのか、霧の中から正解を探し出す必要がある。

川幅が狭いので、遭難するような事態にはならないだろうが、夜明け前の暗闇でここを歩く羽目になったら、ルートファインディングで苦労しそうだ。

幸い、この山には縦走ルートが存在しない。
必死になって夜明け前から行動を開始する必要はない山なので、道迷いになる人は少ないはずだ。

対岸にピンクテープという名の「正解」を見つけたら、次はいかに靴を濡らさず渡るかの検討に入る。
どの岩を足場にするか、一歩目が勝負だ。

普段のこの川の機嫌を知らないので、雨の今日がどれほど増水しているのかは不明だ。
おそらく、晴れていれば「なんだ、余裕じゃないか」と鼻歌交じりに渡れる水位なのだろう・・・たぶん。

霧に包まれた上流から、赤茶色の岩の間を白く泡立ちながら流れ落ちる沢の全景。

06:07
ここは川沿いに進むセクション。

どこまでが登山道で、どこからが川の領分なのか。
もはや境界線は曖昧だ。

水の流れに洗われる、表面が滑らかで巨大な赤茶色の岩のアップ。

06:08
目の前に巨岩が立ち塞がる。
ジャンプして飛び乗るべきか、大きく迂回すべきか、あるいは岩にしがみついて這い上がるか。
なかなかの思案のしどころだ。

いや、ジャンプは危ないからやめておこう。
濡れた岩の上で着地に失敗し、そのまま川にダイブする自分を想像するのはたやすい。濡れるだけならまだいい。骨折とか捻挫は困る。

シダ植物に囲まれた暗い洞窟の入り口と、その前に置かれた「仙人洞」と記された石碑。

06:09
道中、「仙人洞」と呼ばれる空間が現れた。

洞窟といっても、岩が少しばかり横にえぐれている程度で、特に「おおっ」と唸るような造形美があるわけではない。
雨に打たれてメンタルの余裕も削られているので、ここは無慈悲にスルーする。
天気予報によれば、これからコンディションはさらに悪化するはずなのだ。

赤褐色の大きな岩が乱立する間を、激しく飛沫を上げて流れる沢の様子。

06:10
沢歩きというよりは、もはやアスレチックの様相を呈してきた。

岩が複雑に絡み合い、その隙間を水流が白い飛沫を上げながら激しく縫っていく。
どこを歩けば靴を浸水させずに済むか。
脳内にパズルを解くような負荷がかかる。朝、しっかり炭水化物を摂っておいて良かった。お陰で脳が元気だ。

が、結局のところ、ここは「どこを踏んでも濡れる仕様」だった。
そう悟って諦めるのが、精神衛生上の近道だったりする。

「僕の靴はゴアテックスだから!」という、魔法の言葉を唱えてジャブジャブと川に突っ込んでいく。
もちろん、ゴアテックスは魔法ではないので、水没させれば普通に浸水する。
濡れた靴は靴擦れの元だし、後で雑菌が増殖してとんでもなく臭くなる。

帰りの飛行機で、自分の足の臭さを周囲に撒き散らしていることを自覚し、申し訳なさに身悶えするのはイヤだ。
「ジャブジャブ」と言いつつも、せめて濡れるのがソールだけで済むような浅瀬を狙う。

岩場にできた小さな水溜まり. 水底の石まで赤く染まっており、周囲は濡れた苔や岩に囲まれている。

06:11
激流の合間に、ふとした静寂が訪れる。

同じ川とは思えないほど、川幅も水音もコロコロとその表情を変えていく。

赤茶色の沢の流れの向こう側に、巨大なフキの葉が密集して生えている風景。

06:13
どの渡渉点にも絶妙な位置に足場の岩が用意されていた。
「うわあ、くるぶしまで水が!!」という展開には、今のところ一度もなっていない。
先人たちが並べてくれたのか、それとも運が良かっただけなのか。

大きな岩と泥に覆われた急峻な登山道. 左右には濃い緑の植物が茂っている。

06:14
沢を離れたかと思えば、今度は泥とガレ場の急登がお出迎え。

川の近くゆえ、道にはゴロゴロした岩が散乱している。
一歩一歩が安定せず、あまり歩きやすくはない。

06:18
霧はいよいよ深まりを見せ、視界を奪い始める。
雨も、土砂降りではないが、僕の体温を奪うようにしとしとと降り続いている。

視線の先には、フキの海。
川から少し離れたラインを、水音を聞きながら並走して進む。

霧で視界が遮られた山中の平坦な場所。泥濘んだ地面に小石が散らばっている。

06:18
ようやく、わずかばかり開けた場所に出た。

ベンチのひとつもないが、いかにも「ここで休んでいけ」と言わんばかりの不自然な空き地だ。

錆びついた看板を確認すると、ここが「初代清岳荘」の跡地だという。
なかなか攻めた立地だ。
あんなに何度も渡渉を繰り返さなければ辿り着けない場所に、山小屋を構えていたのか。

建設には想像を絶する苦労があっただろうが、あえなく雪崩で倒壊してしまったというのは、なんとも無常な話だ。
ただ、仮に雪崩を免れたとしても、この地で小屋を維持し続けるのはどのみち至難の業だったに違いない。
「誰が、どうやってここを守っていくのか?」
霧に包まれた跡地を見つめていると、運営の苦労ばかりが頭をよぎった。

(つづく)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
    スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
    それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。

  • zennさん>
    富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
    そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。

    先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。

    もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください