
06:53
羽衣の滝の右岸、その草付きをよじ登っていく。
滝があるということは、その落差分だけきっちりと標高を稼がねばならない。
しかも、水平距離をほとんど稼がないままに、だ。
どれほどの斜度か伝わるだろうか。
自分と滝を無理やりフレームに収めてみたが、なかなかの対比だ。
目測で45度はあるだろうか。
そんな壁のような場所を、よいしょよいしょと這い上がっていく。

06:53
改めて、滝だけを眺めてみる。
僕は沢登りを嗜むような人種ではないので、滝をこれほど間近に拝みながら登る経験はない。
これはなかなかどうして、楽しい。
かつて鳳凰三山のドンドコ沢を通った際も滝は近かったが、ここまで「道と滝が一体化」してはいなかった。
エキサイティングが過ぎるというものだ。

さすがは日本百名山、こんな過酷な場所でも道が(一応)整備されている。
おかげで、僕のような沢の素人でも、命の危険を感じつつ素晴らしい体験ができるという仕様だ。

06:54
とはいえ、決して「楽な道」という意味ではない。
目の前に立ちはだかるスラブ。
一見するとただの泥の急斜面だが、その正体は濡れそぼった巨大な一枚岩だ。
ロープもなければ、親切なステップも一切ない。
己の靴のグリップ力と、わずかな凹凸だけを信じてよじ登るしかない。

06:55
羽衣の滝上部。
段差の激しい岩場を、白く泡立つ水が勢いよく流れ落ちる。
苔の緑が一部に見えているが、これは同時に「このあたりには苔があるぞ。不用意に踏めば滑るぞ」という警告色でもある。
どこを足がかりにするか、水流との知恵比べだ。

06:55
滝はまだ上へと続いているが、一旦ここで右岸から左岸へと渡る。

06:58
渡渉ポイントから、今しがた登ってきた滝を見下ろしてみる。
先が見えない。
落ちれば一気に下までバイバイだ。そりゃそうだ、滝なんだから。うっかりここで足を滑らせないようにしないと。ヘルメットなんてあってもなくても、この滝から落ちたら死ぬ。

07:01
足元ばかりに気を取られていると、今度は頭上が牙を剥いてくる。
斜里岳の木々は、重力という概念を忘れたのだろうか。
横どころか、斜め下に向かって太い幹を突き出してきている。
おかげで、歩きにくいことこの上ない。
ただでさえ疲弊している大腿四頭筋に、この「低すぎる幹」をくぐるスクワット動作は、嫌がらせに近い負荷を強いてくる。
くぐるべきか、またぐべきか微妙な高さの幹が多いのも地味にイヤだ。一番疲れるパターンだ。
そして油断すると、容赦なく幹が頭を叩く。
この山のヘルメット推奨は、滑落対策というより「頭上注意」のためではないかと思えてくる。
事実、僕は下山までに10回以上、このトラップに頭をぶつけた。

07:01
またしてもスラブだ。黙々と、しかし慎重によじ登る。

07:04
岩の門を潜り抜けるように水が流れていく。
下二股から先、水の音がとにかく大きい。心地よいといえば聞こえはいいが、要は熊よけ鈴の音が無効化されているということだ。
クマ側が僕の存在を察して、自主的に避けてくれるのがクマと人との共存戦略上の正解だが、この轟音では出会い頭の事故が発生しそうで怖い。出会い頭だと、襲われるのは確実に僕だ。勝ち目はない。
仕たがないので、時折「ワーワーワー!」と虚空に向かって叫んだり、手を叩いたりして、セルフ熊よけを敢行する。後続の登山者がいないことを確認しつつ。

07:05
先ほどの岩を上から見下ろす。
この岩を足場にして、対岸へと渡る。
一体どれほどの年月をかけて、この巨大な塊は上から転がってきたのだろうか。
(つづく)

コメント
コメント一覧 (2件)
何はともあれ"リアルタイムとは別のパラレルをーるどを往く"おかでんのご帰還めでたし。
スマホも保険でなんとかなったようでそこもまた良し。(Fujiの一眼が心配でなりませんが…)
それにしても"振り返れば、斜里岳は本当に楽しい山だった。"果たしてそうか?うーん、わからん。山男の思考はさっぱりわからん。今後の活躍も期待しております。
zennさん>
富士フイルムのカメラをご心配いただき、ありがとうございます。
そう言われてと気がついたのですが、この記事の最後に載せている「故障したスマホ」の写真、まさにX-T20で撮ったものでした。機動力を重視したい場面で、あえてごつい一眼カメラを取り出して構えているというのは、冷静に考えるとかなり倒錯していて面白い絵面ですね。
先日からzennさんには「新しくカメラを買うなら?」という個別のお話をさせていただいていますが・・・いずれ、あるタイミングから「おや?記事の写真の質感が変わったぞ?」という局面が訪れるはずです。
もし変化に気づかれましたら、ぜひ早押しクイズの勢いで「カメラ買い替えただろ!」と突っ込んでみてください。楽しみにしています!