24時間温熱をくらえ【四万温泉】

前月那須湯本で温泉療養2泊3日を行った僕だが、改めてそのすごい効果を実感しているところだ。朝から晩まで湯船と自室の往復。原則、ただそれだけ・・・という生活を短期間ながらも過ごしたのは、世の中のガサガサした手触りから開放された感じがした。余計なことを考えず、余計なことをせず、温泉で茹で上がってくりゃんくりゃんに体がほぐれる。

「旅行は1泊と2泊では大違いだ」というのはこれまでの経験でわかってはいたが、同じ宿でじっと2泊過ごす禁欲的生活は殆どやってこなかった。しかし今回、敢えて自らに足かせを設定して、おとなしく3日間を過ごした時の心地よさといったらなかった。病み付きになりそうだ。いや、病的な状況から開放されようと思ってやってるのに、「病み付き」になってはいかんのだけど。

もちろん、2泊3日の温泉療養を1回やった程度で根本的な解決は無理だ。マッサージ屋でモミモミされている間は気持ちよいのだけど、店を出た直後にすぐに肩こりが戻ってしまうのと一緒だ。こういうのは継続することに意味がある。温泉療養も、定期的にやっていかないといけないのだろう。

ただ、マッサージの刹那的な気持ちよさと温泉療養が根本的に違うのは、温泉療養というのは「あー、極楽じゃのぅ」で終わらないということだ。前回の僕のように、生活リズムを正し、余計な情報や生活の選択肢を排除し、「自分のココロの平安を得るためにはどうすればよいのか」と考えながら滞在していると、いろいろ「気づき」がある。得られるものがある。その「気づき」は、自宅に戻って日常生活を再開してからもある程度は有効だ。

だからこそ、その「気づき」を定期的に繰り返し、それを「習慣化」に固定させていくプロセスが必要となる。そんなわけで、2015年1月も温泉療養を行うことにした。

前回の成功体験を踏まえて、今回も平日2泊3日で計画を立てることにした。週末だと宿の値段が高くなるし、人が増えてゆっくりできないからだ。もちろん、「おかでんは平日に堂々と温泉に行きやがって」という社会的信頼の低下は否めないけど、それに勝る療養効果があると僕は信じている。後でちゃんと成果を出して帳尻を合わせるから、今回も平日のお休みを許して。

そんなわけで、「よっしゃ3泊4日だ!」とか「ほんまもんの湯治のように、最低でも一週間は滞在するぞ」という勇気までは振り絞れなかった。金銭面の問題じゃない、単に世間体の問題だ。やだねえ、世間体を気にする日本人の悪い癖。「効果があるんだから外野はつべこべ言うな」と言い切れるだけのメンタルが欲しい。でもそんなメンタルがないからこそ、あれこれ気を病んでしまうのだけど。

気をつけないといけないのが、僕の悪い癖で「温泉宿探しをするぞ!」というだけでギッチギチに綿密な調査とプラン立案をやってしまうことだ。企画立案の段階で疲れるし、当日を迎えたらその「分刻みプラン」をこなすためにまた疲れる。

でもそれは今の僕がもっともやってはいけないことなので、出来るだけ手抜きでいかないと。「チラ見程度にとどめようぜ」と独り言を言いながら、そっと、そっと、宿探しをする。前回のように、「沖縄の離島に行ったらどうなんだ?」みたいな突拍子もないことははなから考えない。

絞込み条件は前回と一緒だ。やっぱり「温泉でのうのうと過ごす」罪悪感をあまり考えずに済むレベルの場所にしておきたい。自宅から遠すぎる「ウキウキ旅行的な場所」は駄目だし、「一泊二食で1万円以上」も贅沢で駄目だ。ストイックになる必要はないけど、さりげない場所と金額でありたいものだ。

10数件、候補があがってきた。前回同様、那須湯本の民宿松葉に泊まるというのが「療養に特化した、何一つ目新しさがないプラン」として有力ではある。しかしあまりに色気がなさすぎてちょっと選びにくい。安くはないお金を払って療養に行くのだから、ちょびっとは驚きと興奮が欲しい。ならば、那須湯本の近くにある板室温泉・・・というのも、有力候補の一つ。

姥の湯は格安

(スクリーンキャプチャは楽天トラベルの画面)

そんな中、ひときわ目を惹いたのが、宮城県の鳴子温泉にある「姥乃湯」だった。楽天トラベルを見ると、「1,700円/泊」と書かれている。はあ?なんだこの宿。大阪・西成の簡易宿泊所だって、こんな値段は少ないと思う。ネットカフェか何かか?それとも、雀荘のオールナイトプランか何かだろうか?・・・え?「二食付」の値段?嘘だろ、おい。コンビニ弁当でもあてがって、あとは宿の庭先にテントでも張って寝てろ、ということか?

安い宿にはそれなりに訳がある。いくら今回安く滞在費を抑えようと思っているからといって、ここまで安いのはいやだ。僕の金銭感覚でいったら、1泊2食8,000円以上(土曜泊の価格)が選択対象範囲だと思っている。

しかし、1,700円で二食付きともなればちょっと強烈すぎる。自炊湯治宿も兼ねている施設なので、うっかり誤字で掲載してしまったのだろうか?ウヒョー、だとすれば突発的なお得話だ。時々ネット通販のお店が値段を1桁間違って掲載してしまい、注文が殺到する・・・というニュースを聞くが、まさか自分の目の前にそれがあるとは。

「しめた!100連泊してやる!」みたいなお下品なことはさすがに思わなかったが、どういうからくりなのかが気になる。ためしに2連泊で予約手続きを途中まで進めてみた。それで納得。

あー、「※このプランは2泊限定で予約可能となります」と書いてあるのだけど、1泊目と2泊目で値段が異なるのだな。1泊目は、通常の1泊2日の料金と同じ9,200円。で、2泊目の料金が1,700円なのだった。あわせると、2泊3日で税込み11,772円。なるほどそういうからくりか。で、楽天トラベルの仕様なのか、2泊目の料金だけがwebには掲示されるので、他を圧倒する破格値「1泊1,700円」という数字が表示されるという。

うまいこと思いついたものだな、でもずるい。しかし、2泊で税込み12,000円弱ならば、1泊あたり6,000円以下ということになる。こんなお得な値段を提示しているのだから、「
ずるい」なんて言ってはいかん。ありがてぇありがてぇ。

この宿は、いろいろ興味深い。鳴子温泉が温泉地としてすばらしいのは言うまでもないことだけど、この宿だけでも4種類の泉質を持つお風呂がある。単純泉、芒硝泉、重曹泉、硫黄泉。一軒の宿の中で湯めぐりが満喫できるのだからすばらしい。

でも、結局この宿を選ぶことはしなかった。

いろいろ楽しくなりすぎだ、と思ったからだ。自炊湯治宿をベースとしているため、あれこれ検討しておく事項があって面倒だったからだ。暖房器具をはじめとする家電は部屋に一切なし、アメニティもなし。全館暖房無しなので廊下は寒いし部屋には鍵がかからないという。一体何を持参すればよいのか、何を現地で借りられるのか、検討と確認、場合によっては調達も必要となる。あと、昼飯をどこで食べるのかとか、下調べが必要だし、宿に温泉がいくつもあるのは楽しい反面今の僕にとっては「選択肢があることによるストレス」だ。

そして決定打として、鳴子温泉まで行くともなれば片道1万円じゃきかない運賃がかかる。さすがにこれにはちょっと遠慮してしまう。そんな一人旅、楽しすぎだろ。もっとしかめっ面していないと周囲に示しがつかん。療養なんだから。

結局、静岡とか山梨とかいろいろ候補はあったものの、選んだのは「四万温泉積善館」だった。以前から気になっていた名旅館ではあるが、微妙な印象もあり、僕から選ばれずにずっと放置されていた宿だ。それがいよいよ今回、日の目を見ることになった。

四万温泉。

群馬県吾妻郡中之条町にある温泉地。「四万」と書いて「しま」と読む。「四万の病気を治す」ということが由来で、薬湯としてご利益があるらしい。以前、アワレみ隊のワカサギ釣りの際に宿泊したことがある場所だ。

四万温泉なら関東なので自宅からもさほど遠くない。交通費だってしれている。加えて、過去に宿泊経験がある場所なので勝手もわかっている。温泉街は存在するものの、土産物店が軒を連ねるような派手さはない。山あいの比較的静かな場所、という印象がある。泉質は白濁したり強い香りを持つようなものではないが、むしろしっとりと長逗留ができそうだ。

積善館はそんな四万温泉の中心部に位置する歴史ある宿だ。創業300余年というのだからものすごい。堅実な宿経営をやってきた賜物だし、湯がずっとこんこんと沸き続けた証でもある。単にお湯のよさにあぐらをかいていただけでは、さすがに数百年続くのは無理だ。

そんな積善館本館は、元禄四年に建てられたものがまだ残っているという。四万温泉がテレビや雑誌で紹介されるときは大抵積善館が撮影されるわけだが、その時映っている古めかしい木造建築が、まさにそれだ。「日本最古の木造湯宿建築」という肩書きも持っているらしい。

ただ、そういう「味わい深い(けど、かなり古い)」建物が積善館のすべてではない。そこから山の斜面を登ったところに「山荘」、さらに斜面を登ったところに「佳松亭」と宿泊棟は大きく分けて3つに分かれている。斜面の上にいけばいくほど建造年が新しい建物になり、「ラグジュアリーなスパライフをご堪能ください」といったプライスになっていく。

佳松亭のようなお高い部屋に僕は用はないのだが、最下層にある本館は以前から気になっていた。なにせ、お値段が安い。1泊2食付で1万円もしない。「名旅館」の誉れ高いあの積善館が、安く泊まれるというのは意外だし嬉しいことだ。

ではなぜこれまでの人生でここを利用してこなかったのかというと、そのお安い値段が平日限定であることと、「積善館本館のメシは弁当スタイルのものであり、量は少ない」といううわさを聞いていたからだ。

平日限定という時点でこれまでの僕なら手が出せなかったのだけど、それに加えてメシの量が少ない、というのはちょっと残念だった。豪華な宿メシなんていらん、質実剛健でよろしい、と常日頃口にしている僕ではあるが、弁当箱に入っているような食事ならばちょっと盛り上がらない。宿のサイトによると、「食事は広間で提供するけど、部屋に持ち帰って部屋で食べてもよい」と書いてある。つまり、そんなに簡単に運べる程度の量とサイズ、ということだ。うーん。

しかし今、敢えて情報量や選択肢を絞り込んだ生活を温泉旅館で過ごそう!というコンセプトに立った際、この宿が俄然クローズアップされたのだった。メシが少ない?上等じゃねぇか。むしろ少ないご飯をゆっくりと味わって、素材の味をかみしめてやる。

そしてこの宿の場合、冬の閑散期はさらに値段が安かった。

「【2015年新春企画★1人旅応援】≪月曜日~木曜日限定≫価格はもちろん同料金で!のんびり湯治旅♪」

と銘打たれたプランだと、2泊3日で14,040円(税込み)だった。つまり1泊で7,000円程度。うん、これでいいんじゃないか。

プランの説明には、こう書いてあった(楽天トラベルのページから引用)

積善館本館には1名様でご利用いただけるお部屋が2室あります。
しかし、1名様でのご要望が多く、満室になった場合は2名様用の客室に料金UPをしてご案内をさせていただく状況が多くございました。

しかし、冬季時期限定で客室に空きがある場合は本館1番館2名様部屋でも本館2名様部屋でも1名様も同料金でお泊りいただけるように販売致します。

連泊などにも適応となりますので「温泉ファン」の皆様に快適にお過ごしいただけると幸いです。

ただし、1名様用客室はベッドですが2名様用客室はお布団になります。

寝具以外の違いはなく、湯治宿のセルフサービスのスタイルは変わりありませんのでゆっくりとおくつろぎいただければ思います。

※「1番館」という建物は鉄筋コンクリートの作りになっております。
「元禄の湯」に一番近い客室棟でお手洗い、給湯室も建物内に完備しております。

お食事は2階の大広間でご用意しておりますが、ご自身で運んでいただければお部屋でお召し上がりいただくことも可能です。

「一人旅歓迎」である宿を探すこと自体がハードルとなる2015年時点の日本。お一人様を受け入れる手ごろな宿をようやく見つけても、やはり二名三名で泊まるのと比べればかなり割高となる。そんな中、ここでは「1名で泊まれるよ!値段も抑えたよ!」と言ってくれるので、とても嬉しいことだ。よし、ここにしよう。

どうやら、「本館一番館」というところに泊まることになるらしいのだが、どこだろうそれは。元禄時代から続くという、ふっるい木造建築にはさすがに泊まることができないと思うのだが、まさかそこじゃないだろうな?隙間風ですごそうなので、防寒対策はちゃんとやっておいたほうがよさそうだ。

2015年01月27日(火) 1日目

上野駅電光掲示板

9:35
上野駅に降り立つ。

四万温泉に行くにあたって、今回もどういう交通手段で行くか悩んでいた。あーだこーだとグダグダ考えている過程は今考えると本当にどうでもいいのだが、あれこれ時刻表を見たり料金を計算したり、しばらく没頭してしまった。そういう「こだわり」から脱却しなくちゃいけない、というのが現在の僕の課題なのに。療養に行くためにカリカリしてどうする。やめろやめろ。

四万温泉に行くなら、大きく分けると

(1)東京駅八重洲口から出ている直行バス「四万温泉号」に乗る
(2)上野駅から「特急草津」に乗り、中之条駅で下りて路線バスで四万温泉へ
(3)上野駅から鈍行列車。高崎乗換え、中之条から路線バスで四万温泉

という3パターンがある。今回も、もちろん車は使わない。車なんてあったら、「せっかくだからあっちにも立ち寄ろう。ついでにこっちも」ということになってしまうからだ。

で、結局僕が選んだのは(3)だった。そんなわけで、上野駅というわけだ。

まだ通勤ラッシュのほとぼりが冷め切らない、9時過ぎの都内。一人温泉に行く体制で上野駅。こういうことやってていいのかなあ、と思うが、気にするときりがない。ちゃんと各方面に説明と手続きは済んでいるので、全く問題はないのだけど。

「イヤッホゥ、これから温泉だぜ!」

と安易に浮かれられないし、かといって渋い顔をしつつ足早に電車に乗り込む、というのもうそ臭い。結局曖昧な薄ら笑いを浮かべるしかないのだった。

快速アーバン

09:36
早めに上野駅に到着したら、予定していた9時50分発の電車より一本前、9時37分発「快速アーバン」に乗り込めそうだった。「上野駅で旅情をかみ締めながら、何か車中や宿泊先でのおともを買う」という暇なく、そそくさと電車に乗り込む。快速に乗れるのならば、渡りに船だ。早く現地に到着できる。

グリーン車

09:42
まだ僕が学生だった頃、知り合いだった女性(年上の社会人)が

「彼氏が高崎に住んでいたので、よく高崎行きの電車に乗ってたの」

と語ってくれたのを思い出した。

「へえ、じゃあ快速アーバンですね?」
「あらよく知ってるのね。そう、快速アーバン。お世話になったなあ」
「なにがどう『アーバン(都会的な、という意味)』なのかよくわからない電車ですけどね」
「彼氏と会う、それがアーバンなのよ」
「意味わからないッス」
「いずれおかでんくんもわかるときが来るかもよ」
「はあ、そういうモンですかね・・・」

で、いよいよ今こうして40歳おかでんがアーバンに乗ったわけだが、やっぱり意味がわからないッス。あれから20年も経過しているのに。

それにしても、20年も前の会話をいまだに覚えているのが不思議だ。何か僕の琴線に引っかかる会話だったのだろう。

Suicaタッチ

今回もグリーン車を使う。高崎行きで、しかも快速で、グリーン車を使うなんて贅沢のきわみだ。でも、一度使うとやめられんのだよなあ。ロングシートなんて豚のエサ、と思えてくる。進行方向に横向きだなんて何の罰ゲームだ?とか。まあそれは大げさだとしても、グリーン車は有料なだけに快適なのは間違いない。

パソコン作業

09:51
パソコンを広げ、作業をあれこれやる。

自宅で同じことをやっているよりも作業効率は落ちるが、「家でしこしこパソコンをいじっている」という罪悪感は解消されて快適。

なんかさっきからずっと「罪悪感」という言葉が出てくるけど、おそらく僕は「こうあるべき」という「べき論」が強すぎる。その「べき」から逸脱したことをやっていると、ものすごく罪悪感を感じてしまう。

昔は、「昼から酒を飲んで背徳感がウメーッ!」などと開き直っていたものだ。「昼から酒は飲むべきではない」という「べき論」を蹴り倒すことが最大の酒のつまみだったのに。性格が変わった。