12:19
木々の間を登っていく。
傾斜そのものはきつくはない。大きな周期でつづら折れになっているので、ゆっくりと標高を稼いでいく。走ろうと思えば走れるけど・・・けど・・・いや、走らない。「公式タイム」なんてものが存在しないので、何分何秒で走ったかということにあまりモチベーションが沸かないからだ。順位を上げる、ということについては確かにやる気を喚起されるが、一人二人抜いたからといって何がどうなるわけでもない。「ハワイ遠島の刑」をはじめとする豪華抽選会への権利は、ゴールさえすれば等しく与えられる。
そうなると、「怪我のないよう、確実に」とじじくさいことを言いながら一歩一歩前に進んでいくことになる。時々、この期に及んでやる気に満ち溢れた人に追い抜かれてしまい、正直悔しい。だからといって、なにくそ!と後追いして追い抜くのも、「おかでん必死だな」感がイヤだ。自意識が邪魔をする。
そんなわけで、速すぎず遅すぎずという絶妙なスピードで前へと進むのだった。
12:20
ドレスを着ている人が、ふわっとふくらんだドレスの裾をたくし上げながら歩いていた。さすがにこの格好で歩くのはしんどいらしい。
この頃になると、早々にゴールを済ませた人が続々と下山してきており、すれ違うようになっていた。
「お疲れさまでーす」
「頑張ってくださーい」
お互い声をかけあう。登山における登山道でのあいさつ、みたいな感じだ。
12:21
前方に大きな谷が見えてきた。車道はこの谷を上りながら回り込んでいくルートになっているのだが、「のっとれ!松代城」はこの谷を横断する形に設定されている。これがこのレースで一番エキサイティングな「地獄谷渡り」だ。
地獄谷、とはなんとも大げさなネーミングで、温泉が湧いているのか、毒ガスが噴出していて飛ぶ鳥がみな死ぬ、みたいな印象を持ってしまう。しかし実際はご覧のとおりの雪原。こういう「オーバー表現」が「のっとれ」の楽しさだ。
谷にはワイヤーが張ってあり、そこにぶら下げられた古タイヤにしがみついて谷を渡るというアスレチックになっている。関門、といっても「しがみついて、重力に任せるだけ」なのでそんなにしんどくはない。怖がりの人ならともかく。
12:27
しかし、ここがものすごいボトルネックになっていた。タイヤが谷の向こう側に渡ったら、それを引っ張ってこっち側に引き戻さないといけない。ケーブルカーやロープウェイみたいに、向こうに行ったらかわりに向こうのヤツがこっちにやってくる、なんていう交互運転はできない。そのため、一人さばくだけでもそれなりの時間がかかってしまうのだった。
500人規模という圧倒的な戦士の数を前に、地獄谷はパンク。しかも、何基かあるタイヤレーンのうち1つが故障のため使用不可になってしまっていた。このため、ますます行列が長くなる一方。
「タイヤを使わずにそのまま道を使って先に進んでいただいてもかまいませーん」
とスタッフの方から声がかかる。実際、断念してそのまま車道を歩いていく人も結構いた。たまたまここで出会ったよこさんも、「タイヤ使わないで先いきますわー」といってタイヤは諦めてしまった。
12:29
みんなが続々と諦めてしまうくらいの行列の長さだったわけだが、結局僕はそのまま列にとどまり、地獄谷渡りを敢行した。タイヤにこだわりはなかったのだけど、「関門をスルーしてゴールした」というのはなんだか悔しかったからだ。
タイヤに掴まって谷を渡る・・・なぜタイヤが対岸に進むのか?それは、ワイヤーが対岸に向けて低くなるように張ってあるからだ。これまで稼いだ標高を無駄にする、ということでもある。わずかではあるけど、回避できるならそれにこしたことはない。
12:32
谷を渡ったところで、トラロープに掴まりながら崖をよじ登る。よじ登って車道に復帰したら、ようやく正面に松代城が見えてきた。
12:34
松代城直下。
ルートは左に回りこんで、尾根に出てから尾根沿いに頂上を目指していくことになっている。しかし、事前に周知されていたルートでは、この崖を直登するという設定になっていた。かなり登り甲斐のあるハードなルートで、面白そうだ。しかし、まさか圧雪しない状態で「さあこれを登れ」というわけにはいくまい。この崖をルートにするなら、事前にスタッフがルート設営をしなければならないわけで、やっぱりそれは難しかったのかもしれない。
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