12:45
運営スタッフだと思われる方が、ドローンをお城上空に飛ばして撮影をしていた。きっといい絵が撮れたと思う。みんないい顔してるもん、ここにいる戦士たち。
これが夏の開催だったら、「あー、あちー」とかいって汗だっくだくのこきたない連中、ってなっていたと思う。冬だからこそ、しれっとしていられる。
今まさに撮影しているのかどうかはわからなかったけど、ドローンに手を振っておいた。
なんだやたらと善人だな。10年20年前のおかでんなら、ここで股間をドローンして、「せっかくの撮影を台無しにして使えなくしてやるぜ!」とかいきまいていたかもしれないのに。牙が抜かれてすっかり丸くなりやがってこの野郎。
よこさんは僕よりも先にゴールしていた。地獄谷をスルーしてそのまま成仏したからだ、と本人は謙遜するが、もともと冬は頻繁に青森の酸ヶ湯に通ってスノーボード三昧な人だ。最近ろくずっぽ山登りをしていない僕なんかよりははるかに体力がある。
あれ?そういえばもう一人エントリーしていたたっぴぃさんはどこへ行った?
「たっぴぃさん、見た?」
「いやー?山頂にはいないと思うんすけどねー?」
お互い顔を見合わせる。
「たっぴぃさんってソフトボールや軟式野球を今でもやってて、体力は一番ありそうなのに」
「ずっと後ろなんですかね?」
「遅いといっても、ここまで遅いとは思えないんだけどなあ」
バッキバキに草野球をしまくっているわけではない、とはいえ、そういう野球チームに属している時点で現役だ。そんな人が僕らよりも遅いというのはなんとも解せない。そりゃ、三人の中では一番年齢がいっているとはいえ、まだまだ脂が乗っている歳ではある。
二人で心配してゴール間際の尾根を見下ろすが、その姿は見えない。
12:55
まさかとっととゴールしてとっとと下山したわけはあるまい。それなら、途中ですれ違っているはずだ。
「まさか途中棄権?」
「昨晩飲みすぎたか!」
いやな予感しかしない。そういえば道中一回も彼の姿を見ていない。途中で追い越したということもない。
「昨日の美食でおなかが膨らんでしまって、砦を乗り越えられなかったか」
「まさか。無理やりでも引っ張り上げられますよあそこ」
じゃあ一体なんだというのか。
よこさんがLINEでたっぴぃさんに連絡をとってみるが、当然返事はない。
「駄目か、今は既に病院のベッドか」
悪ふざけがすぎる。
12:56
やきもきしながら、尾根を眺めていたらはるか遠くからたっぴぃさんがやってくるのが見えた。もう多くの人が下山している中、えっちらおっちら登ってくるたっぴぃさん。
12:57
「たっぴぃさーん、がんばれー」
仲間ならではの温かい声援を送る・・・のだが、ついでに
「はしれー!ゴールはもうすぐだー、全力ではしれー!」
と酷なことを言ってみた。たっぴぃさん、顎をあげてあえぎながら、なんとか走り出した。あ、本気にしてくれたんだ。悪いこと言っちゃったかな。
はっぴを着たスタッフの方がゴール地点より前に出てきているところからわかるとおり、そろそろゴールをクローズしようとしている。やべーやべー。
たっぴぃさんゴール。
所要タイムは1時間20分ちょっと。最後、無意味に僕に煽られて走ったので、両肩をがっくり落として荒い息をしている。
ついには中腰になってしまった。かなりキツかったようだ。それを面白がって撮影するよこさん。
でもなんでこんなに遅かったのだろう?「野球をやっているから速いはずだ」というのが買いかぶりだったとしても、我々よりも15分くらい遅れているのはちょっと不自然だ。
聞くと、レース開始早々足を痛めてしまったのだという。
今回、気合を入れたあまりに安全靴を履いて臨んだのだが、その硬いつま先部分に指が負けてしまい、靴ずれ状態になってしまったらしい。たぶん歩くだけでも痛かったはずで、たっぴぃさんはゴールするまでの間「なんてこったい」と何度もつぶやいたことだろう。
なんてこったい!
でも、リタイアすることなくゴールまでたどり着いたのは立派だ。ここから下山になるわけだけど、そこで余計に靴ずれは痛くなる。そうだとわかっていてもゴールを目指したガッツには感涙を抑えがたい。
これで3人、お楽しみ抽選会への権利をゲットだ。
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