
僕にあてがわれた席は、料理がずらり並ぶ大広間内ではなく、通路のような場所だった。通路、といっても急ごしらえの席がやっつけで置いてあるわけではなく、ちゃんとす据えつけてある。
昔は大広間で大宴会!だったのかもしれないが、今やバイキング会場になり、会場内に収容しきれない客を「元通路」の席にまで案内している。時代は移り変わるものだな。結果的に「溢れるほどのお客様が日々このホテルを訪れている」というのは成功なのだろう。客単価は以前と比べて下がったとは思うが。
図体がデカい時代遅れのホテルが母体だけど、経営は「今の時流を十分理解している」大江戸温泉物語だ。少人数利用を想定して、二人がけの席が用意されているというのがおもしろい。
まるでファミレスかフードコートのようだ。
隣の席との間に挟まっているついたてしかり。

席に案内してもらった際に、「使用中」と大きくかかれた札を渡された。オキュパイド、とも書いてある。占領中というわけか。
バイキングの場合は席を離れている時間が結構長いので、その席が使用中なのか使用済みなのか未使用なのかわかりにくい。その判別用にこのような札があるというわけだ。
おかわりに行っている間に皿を片付けられ、しかも次のお客さんが座っていてびっくり!ということがこれで防げるわけだ。なるほど。
「トイレから戻ってきたら、お皿が下げられていた。まだ食べている途中だったのに!ウキー!」
という話はあちこちで聞くけど、オキュパイドしておけばそれは問題なしだ。

先ほど見たとおり、びっしりと並ぶ料理の数々。あとはもう、好きなだけ好きなものを取ればよい。・・・のだけど、あれ?なぜか卓上にメニューらしきものがあるよ。
手にとってみたら、それはアルコールメニューだった。ああそうか、アルコールは別料金だからな。

値段は結構高い気がする。いや、赤提灯で飲むわけじゃないんだ、ホテルで飲むんだから高くて当然だ。プレモルがジョッキで570円だからって、高いと思ってはいかん。
酒飲みにとっては、これだけ酒肴になる料理があると、食べるのも中途半端・飲むのも中途半端になってしまいそうだ。心行くまで飲み食いする!というのは時間的になかなか難しい。
こんなサービスもやっていた。「カクテル飲み放題フェア」。60分間で9種類のカクテルが飲み放題、お値段は500円。やっすぅぅ。プレモル一杯よりも安いぞ。
甘い酒で飯が食えるかこの野郎、という向きには、まず最初にビールなんぞを飲み、その後この500円フェアで酔いを加速させるという二段階ロケット方式が良いかもしれない。それにしても安い。
案の定、隣のおにーさん二人組は、がっぽんがっぽんこのカクテルを飲んでいた。「時間がないのでどんどん飲もう」とお互い声をかけあい、通常よりもオーバーペース気味の様子。しかしこうなるとメシなんておちおち食ってられないので、結果的に宿としては食材費を抑制できて得する仕組みだ。うまいもんだな。

お酒を飲まない男ひとり旅・おかでんはウーロン茶を神妙な顔で汲んできて、まずはお料理第一陣。
バイキングにおいて、自席と料理カウンターを行き来する時間が面倒だし勿体無いと常日頃思ってやまない惑える中年おかでんは、どうしても一度にたくさん持ってこようとしてしまう。そのため、トレイがごらんの有様。見ろ!10代の青年の食事風景じゃないぞ!これが41歳の男のやることだ!人の生きざまってぇのはきれいごとじゃないんだ、リアルなんだ。これが俺様だぁぁぁぁぁっ!
と、エビフライをがぶりとかぶりつく。
いやー、それにしてもすごいな。エビフライの下にはエビチリ、そしてその隣には湯波刺、焼きそば。脈略もへったくれもない。
品数が多いバイキングなのだから、「珍しいもの、好きなものばかりを中心に食べる」ことにするに限る。なにも、大して美味しくない焼きそばなんて取る必要はない。・・・しかし、料理として存在している以上、取らざるを得ないのですよ。そういう宿命なのですよ。私はすべての料理に博愛の目線を送る。

というわけで、第二回選択希望選手。トレイ一つだけで行ったりきたりするのは面倒なので、一度に二つ持ってきたった。
奥は寿司エリア、手前はいろいろ。
「数多くの料理の中から、あえてこれを選んだ理由は」とかっこよく答えられればよいのだけど、残念ながら「片っ端から取ってるんです。トレイに載るだけ、お皿を積んでます」というのが正解。なんとも荒々しい。ブルドーザーじゃないか、これじゃあ。

第三回選択希望選手。お椀に入った料理がずらりと並ぶ。スープカレーも忘れちゃいない。
うう、かなりおなか一杯になってきた・・・。

デザートもここのバイキングは品数豊富だ。
僕は、バイキング料理を「極力全部取る」ようにしているけど、さすがに100%は無理なので、「デザートと、漬物、サラダ類は取らなくてもいいや」というマイルールを設定している。
なので、今回デザートはパスしても良かったのだけど・・・それにしてはデザートエリアが充実していたので、見逃せなかった。これはもう食べるしか。
その結果、ソフトクリームとカニが同居する不思議な写真になった。
カニなんて高級食材でバイキングの目玉だ。だから最初っからコイツ目当てで食べまくるのが一般的なジャスティスなんだと思う。しかし、僕は「カニって、食べる手間とウマさがいまいち比例してないよな」と思っているので、面倒がってカニは敬遠しているのだった。
とはいえ、食べないというのも惜しいので、なぜかデザートと一緒に登場するハメに。

満腹になり、札を「空席」に戻して退席する。
かなり食べた。食べ過ぎた。一人バイキングというのは、ついつい食べ過ぎてしまうな。人と話しながらのメシだったら、どうしても箸の動きが鈍ってしまうけど、一人だとそうはいかない。牛丼屋で牛丼をかっこむ勢いでバイキングに対峙すると、胃袋がぎゅうぎゅうになってしまった。それだけ食べるものが豊富だったということでもある。すげえな、このホテル。

その結果、こうなる。
食事処から部屋に戻る途中の廊下、胃袋が猛烈に痛んで思わず立ち止まってしまいそうになったくらいだ。「おなかを壊したのでおなかが痛い」のではない。胃袋が物理的に拡張の限界に達し、イタイイタイと言っているのだ。たぶん、胃に入った料理が水分を吸って膨張し、胃を圧迫したのだろう。
痛くて苦しくて、ヨチヨチ歩きになりながらなんとか部屋に戻る。
あとはもう、おとなしくして苦痛が過ぎ去るのを待つしかない。
見よ!これもまた生きざまだ。
コメント
コメント一覧 (2件)
初めまして
コメントをさせて頂きます。
記事に紹介されていた鬼怒川温泉の御苑で勤めていた者です。私が勤めていた頃はバブルの終わりの頃でした。
平成4年頃~6、7年まで鬼怒川温泉のホテルの寮を借りて仕事をしていました。
非常に懐かしいですね…御苑…本当に広いホテルで、今で言うダンジョンの様な(笑)新宿駅ほどではないですが、
私は当時、宿泊されるお客様を部屋まで案内する仕事(フロント受付から客室案内係や繁忙期には仲居さんの
サポートまで幅広く?仕事をしておりました。)をしていて、一度、お客様を部屋まで案内するのですが、フロントまで戻るには非常に時間が掛かっておりました。年末年始の忘年会や新年会や夏休み、冬休みなどとにかく休みを利用して来るお客様もたくさん来ていました。
とにかく一番大変だったのは年末の忘年会シーズンですね、もう何百名との団体のお客様がどっと来るので、部屋までの案内も大変なことはさる事ながら、宴会も賑わい…もうお酒をたくさん召し上がるお客様も多かったので仲居さんだけでは、対応しきれずよくサポートにも駆り出されました。写真を拝見させて頂いてあの頃は…とつい懐かしんでしまいました、貴重な掲載して頂き写真をありがとうございました。
今じゃ鬼怒川温泉も廃墟マニアには堪らない様な感じになってしまった様ですね、本当に懐かしい…。御苑は隠し部屋がたくさんありましたよ(笑)
はやぶささん>
貴重な体験談、お聞かせいただきありがとうございます。往年の賑わいを実際に体験した方から聞けたことがとても嬉しいです。
あの崖にへばりつくような建物、そして増改築を繰り返して巨大化した建物ははやぶささんが仰るような桁違いに大勢のお客さんがいらっしゃったたまものだと思います。炭鉱跡や金山跡が文化遺産として保存されているように、御苑のような超巨大ホテルはなんとか今後も経営が続いてほしいものです。団体旅行が減ってきてからまだそんなに時間が経っていませんが、すでに文化遺産的な珍しさと驚きに満ちた建物だと思います。
御苑の前にある「ふれあい橋」、やたらと立派なんですがなぜあんな立派な橋があるのか、とても不思議です。