栄枯盛衰を温泉地で見た【鬼怒川温泉】

川沿いを歩く

12:12
日光東照宮方面の賑やかな気配を尻目に、僕は一人川沿いを歩いてゆく。こちらの道は人の気配が少なく、急に観光地の風情がなくなる。

寒い空の下、どうどうと音を立てて川が流れる。その脇を黙々と歩く。何かの修行をしているようだ。昨日から本当によく歩いている。「温泉療養のつもりなのに、観光要素が結構入っている」という点では、初志からすると随分と堕落したが、これが運動療法の一環であると思えば許せる。

目指す先は・・・

かんまんが淵を目指す

そう、これこれ。

「憾満ヶ淵」というところにこれから行くつもりだ。日光といえば東照宮!だし、それを見た後はいろは坂!華厳の滝!そして中禅寺湖!と大艦巨砲クラスの観光地が目白押しだ。そんな中にひっそりとある怪しいスポットがここ。

「かんまんがふち」と読む。この当時の僕は随分と頭がぼんやりしていて、どうやっても「かんまん」が覚えられなかった。誤って「ぼうまんがふち」と覚えてしまい、その間違いに気がついたのは随分後になってのことだ。

「膨満感」(胃腸の調子が悪く、おなかがふくれて感じること)という単語と混同してしまったらしい。

なんでもここには、「化地蔵」と呼ばれるミステリースポットがあるらしい。寒空の下、なにやら秘密めいたそんな場所を訪れてみるというのは興味をそそる。

川

橋を渡って対岸に向かう。その化地蔵とやらがあるカンマンがフチだが、今のところそのような場所がある気配はない。のどかな景色だ。

普通の道

12:21
おい、大丈夫かね?

すっかり民家がぽつぽつとしかないような道になってしまったぞ。

観光客が、徒歩で気楽に訪れるような場所ではない気がする。いや、距離的には東照宮から歩いて来られる場所だけど。

空き地

12:22
心細くなったのか、水力発電の設備を発見して思わず写真撮影している僕。

・・・何の記念だ?何の記録になるんだ?これ。

凍る道

12:25
しばらく進むと、駐車場があり、その先からは景色が変わった。何か霊園というか、お寺でもありそうな感じ。道路は舗装でなくなり、何かの敷地内に入った雰囲気がある。とはいえ、何かがあるわけでもなく、だだっ広いところをそのまま歩き続ける。

門

12:27
だだっ広いところの突き当たりに、山門らしきものがあった。「慈雲寺」という文字が掲げられている。あ、お寺なの?

敷地内

12:27
どうやら左側の建物がそのお寺らしい。右側の川が、「憾満ヶ淵」ということなのだろう。お、奥にお地蔵さんが並んでいるのが見える。

お地蔵様1

慈雲寺の奥、川沿いにずらっと並ぶお地蔵さん。みんな赤いよだれかけをかけてもらっていてにぎやかだ。しかし、風雨に晒され、既に表情がほとんど読み取れないものが多い。

ここに並んでいらっしゃるお地蔵さんが「化地蔵」と呼ばれているものだ。地蔵といえば、菩薩の地位にある存在。「化ける」だなんて俗っぽすぎておかしいのだが、ともかく「化地蔵」という。

というのも、ここに並ぶお地蔵さんの数を端から端まで数え、帰りにもう一度数え直すとどうしても数が合わないのだという。何そのミステリー。

お地蔵様2

試しに数えてみる。

お地蔵様3

洪水の都度流され、それを地元の人たちが川底から拾い上げまた安置、ということをやっているので、既にボロボロのものもある。この写真のお地蔵さんなんて、頭がもげてなくなってしまっているので、代わりに塩梅の良い石が乗っかっている。

お地蔵様4

ここまでくると、よだれかけがあるから「お地蔵さんなのだろう」と思えるレベル。

かんまんが淵

川の流れはとても奇麗。歩きながら、お地蔵さんを数える片手間に川も観賞していたら、すっかり数がわからなくなってしまう。なるほど、「行きと帰りではお地蔵さんの数が違う」というのは、こういうからくりもあるのだな。思わず気が散ってしまう、風光明媚がすぐ近くにあるから。

お地蔵様5

それだけじゃない、ええと、このお地蔵さんは何体とカウントすればいいんだ?赤けりゃ1とカウントするということでいいのだろうか。首がないお地蔵さん、首だけのお地蔵さん、ええと、石碑みたいなのは・・・さすがにあれはお地蔵さんではないな?

もう、わけがわからない。

こりゃカウントミスをするわけだ。

往路と復路じゃ、お地蔵さんを眺める角度が変わってくる。そうすると、カウント対象にするかしないかという判断も違ってきそうだ。

あずまや

12:32
あずまやがかんまんが淵にせり出した岩の上に建っていた。「霊庇閣」といって、もともとは慈雲寺の護摩壇だったらしい。

並ぶ地蔵

霊庇閣の先にも、ずらーーっとお地蔵さんブラザーズ。

正確には、化地蔵と呼ばれるのはここから先のお地蔵さんのことらしい。いやもう、さっき見てきた慈雲寺のお地蔵さんの時点で十分数がわからなくなってるんですけど。

かんまんが淵

霊庇閣とかんまんが淵。

解説板

かんまんが淵の解説。

川が流れる音が「不動明王の真言のように聞こえる」ことから、不動明王真言の最後の一句「カンマン」を淵の名前にしたのだとか。

耳を澄ましてみる。周囲に誰もいないので、川の流れを聞くにはうってつけだ。

カンマン、カンマン

嘘つけ、そんな音には絶対聞こえない。

でも、「ザー」としか聞こえないよりも、不動明王真言「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン」と聞こえている方がロマンがあるよな。ああイヤダイヤだ、平凡な耳と想像力しか持ち合わせていないだなんて。

・・って長えなおい、不動明王真言。

僕の実家も真言宗なので、お盆や法事の際には不動明王真言を唱えるけど、ふだんのお勤めでは簡略バージョンの「ノウマク サンマンダ バサラダン カン」を用いている。「なんだよ、カンマンじゃないじゃないか」と思ったが、ロングバージョンの真言だとちゃんと語尾は「カンマン」だった。

呪文みたいだよな、全然意味がわからない。呪い殺されそうだ。・・・いや、そんなお経を僕は実家に帰ったら仏前に唱えているわけだけど。死んだ祖先をさらに呪い殺してどうする。

かんまんが淵

さっきまでのどかな流れの川だったのに、このかんまんが淵エリアだけは川幅が狭く、岩がゴロゴロした場所になっていて不思議。

カンマン、カンマンと口ずさみながら先へと向かっていく。

これはカウントすべきか

あーっ、川に気を取られているうちに完全に数がわからなくなってしまった。やられたーッ。

しかもダメ押しで、この界隈のお地蔵さんは難易度がかなり高い。もう、人型のていを成していないものだらけだ。

お地蔵様

結局、数が合う・あわない以前にカウントすらままならないまま、このミステリースポットは終了。

ミステリーなのかどうかはわからないけど、大変面白い場所だった。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 初めまして
    コメントをさせて頂きます。
    記事に紹介されていた鬼怒川温泉の御苑で勤めていた者です。私が勤めていた頃はバブルの終わりの頃でした。
    平成4年頃~6、7年まで鬼怒川温泉のホテルの寮を借りて仕事をしていました。
    非常に懐かしいですね…御苑…本当に広いホテルで、今で言うダンジョンの様な(笑)新宿駅ほどではないですが、
    私は当時、宿泊されるお客様を部屋まで案内する仕事(フロント受付から客室案内係や繁忙期には仲居さんの
    サポートまで幅広く?仕事をしておりました。)をしていて、一度、お客様を部屋まで案内するのですが、フロントまで戻るには非常に時間が掛かっておりました。年末年始の忘年会や新年会や夏休み、冬休みなどとにかく休みを利用して来るお客様もたくさん来ていました。

    とにかく一番大変だったのは年末の忘年会シーズンですね、もう何百名との団体のお客様がどっと来るので、部屋までの案内も大変なことはさる事ながら、宴会も賑わい…もうお酒をたくさん召し上がるお客様も多かったので仲居さんだけでは、対応しきれずよくサポートにも駆り出されました。写真を拝見させて頂いてあの頃は…とつい懐かしんでしまいました、貴重な掲載して頂き写真をありがとうございました。

    今じゃ鬼怒川温泉も廃墟マニアには堪らない様な感じになってしまった様ですね、本当に懐かしい…。御苑は隠し部屋がたくさんありましたよ(笑)

  • はやぶささん>
    貴重な体験談、お聞かせいただきありがとうございます。往年の賑わいを実際に体験した方から聞けたことがとても嬉しいです。

    あの崖にへばりつくような建物、そして増改築を繰り返して巨大化した建物ははやぶささんが仰るような桁違いに大勢のお客さんがいらっしゃったたまものだと思います。炭鉱跡や金山跡が文化遺産として保存されているように、御苑のような超巨大ホテルはなんとか今後も経営が続いてほしいものです。団体旅行が減ってきてからまだそんなに時間が経っていませんが、すでに文化遺産的な珍しさと驚きに満ちた建物だと思います。

    御苑の前にある「ふれあい橋」、やたらと立派なんですがなぜあんな立派な橋があるのか、とても不思議です。

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