潜入、湯治宿【大沢温泉】

大沢温泉看板

花巻駅からバスが出発して約30分。

悠の湯、志度平温泉、渡り温泉を経由して、いよいよ大沢温泉に到着した。

バスはこのあと、山の神温泉、鉛温泉と進み、終着点は新鉛温泉となっている。

そういえば椎名誠のエッセイで、行き当たりばったりの東北ぶらり温泉旅をしたという話を思い出した。その話は、行き先を決めておらず適当に花巻で下車し、適当にバスに乗り、適当な温泉宿に飛び込みで泊まろうとしたという内容だった。しかし、バスの終着点まで行ってみたら、あまりに閑散としていて寂しく、その光景にビビッてしまい慌ててバスに乗りなおしてUターンした、という内容だったと思う。その後どこの宿に泊まったかは覚えていないが、後で調べてみたらまさに今回泊まる大沢温泉泊だったらしい。話中、椎名誠は「山の神、というのは奥さんを意味する言葉だから、旅行に行ってまで奥さんのことを思い出したくない」という理由で山の神温泉はスルーしていたのは強く印象に残っている。なんてこったい。

大沢温泉到着

15:55
バスは大きなひさしがプラットホームのようにせり出したところに乗り付けた。ここが車寄せになるのだろう。雪がよく降る北国なので、天気が悪いときでもお車への乗り降りが楽なように、という配慮だろう。

・・・でも、でかいな。

なんだか、イメージが違う。湯治の、自炊の宿・・・というイメージだったので、この屋根一つとっても予想外だ。もっと木造建築で、もっと隙間風が吹いているような印象があったのだけど(誇張表現含む)。

でも、考えてみりゃそりゃそうか。なにしろ、宿の中に風呂が何箇所もあり、食事処もあり、大きく分けると3つの宿泊棟を抱えているような巨大温泉旅館だ。これくらいあっても驚いちゃいけない。

自炊部は別建物

実際、自炊部に泊まる人はこのひさしからそのまま中に入ることはできない。このひさしから「やあどうもどうも」と胸をふんぞり返らせながら入場できるのは、「菊水館」に宿泊している人限定だ。

自炊部の人は、いったん脇道に逸れ、少しだけ坂を下ったところまで歩いていくことになる。そこに、木造の渋い建物「自炊部」がある。いいぞいいぞォ、むしろこういう建物のほうが燃える。

自炊部フロント

自炊部の中に入る。味わい深い木造建築で、ほっとした気分になる。

広いロビーとか、開放感ある吹き抜けとか、そういうのとは真逆の感じがいい。かといって、ごちゃっとしてこきたない、ということが全くない。

しかし情報量が多いな、こういう空間を探検し、理解するのにソワソワしそうだ。四万温泉に宿泊したとき、館内探検や温泉街探検の作戦をあれこれ考え過ぎてぐったりしたことを忘れてはいけない。

少なくとも、今この玄関口にあるあれやこれやをジロジロ見て、これからああしようこうしようと作戦を立てるのはやめだ。

自炊部ロビー

自炊部は大きなフロントがあるわけではなく、こじんまりとした帳場があるだけだ。そしてその脇には畳の間があり、小さな四角いちゃぶ台が置いてある。ここで長逗留する人はお喋りに花を咲かせてくれ、ということだろうか。

湯治ができる宿ではあるが、バリアフリーとかしったこっちゃねぇ、という作りが潔い。ソファとか椅子なんて無いので、座りたければ畳に座れ、というわけだ。

「歳を取ったら温泉でゆっくりしたいのぅ」

というのはちょっとした憧れかもしれないが、味わい深い温泉宿でゆっくりするためには、それなりに足腰がシャンとしていないといけない好例。

宿側が気を利かせてバリアフリーなんかする必要はないと思う。これはこれで、味わいがあるのだから。足腰が弱っているけど温泉に浸かりたい、という方は先ほどの大きなひさしがある建物、山水閣に泊まるとよろし。たぶんあっちは随分バリアフリーな作りになっているはずだ(実際に中を見ているわけではないので、真偽不明)

スリッパ

スリッパ。

大沢温泉自炊部 湯治屋

と書かれているのが、旅情をそそる。

あと、スリッパの中敷が畳表風なのがまたいい。

ご案内

この大沢温泉は外来入浴も受け付けているのだな。入浴料600円。

面白いのは、ここから2つ奥にある温泉、鉛温泉との共通入浴券があるということ。両方の温泉に1回ずつ入浴できて800円。鉛温泉の風呂も名湯として名高いので、これはいい。

思わず身を乗り出してしまったが、待て待て、お前は今大沢温泉にやってきているんだ。何で共通入浴券を買う必要があるんだ。そもそも、鉛温泉まで遠征しようなんて悪い気を起こすなよ?今回は敢えて温泉街が存在しない宿を選んだのだから、ひたすら3泊4日、おとなしくこの宿でじっとしていよう。

地図1

宿の地図を見てもややこしくて、すぐには状況を理解できない。

地図2

逆アングルから見た絵地図があるくらいだ。普通、向きを変えたら見ている人が混乱してしまうのでやるべきではないが、こうやって表裏ひっくり返した図があることによって、ようやく理解がはかどるという状況。

基本的には、

【立派な宿】山水閣 - 【湯治宿】自炊部 - (橋を使って川を渡る) - 【中堅宿】菊水館

という構図になっている。

しかし実際は複雑に増改築が繰り返されており、単純に横一列に並んでいるわけではない。自炊部なんて、この後紹介するけどなかなかのダンジョンだった。

菊水館は川向こうということもあって、この建物に宿泊する人は山水閣・自炊部の玄関があるところからぐるーっと大回りする道路を通り、川を渡って建物にアプローチすることになる。離れ、といった風情だ。

この各建物ごとに浴室や露天風呂があるので、さあ大変だ。毎日あっちこっちお風呂に入りにいかなくちゃ。しかも、それぞれの湯で入浴時間に制限があるようなので・・・あー、四万温泉積善館のときよりもややこしい展開になりそうな気がする。

だいたい、絵で描くとコンパクトだけど、実際はかなりの幅がある巨大旅館だ。端から端まで歩くだけでも大ごとだ。

ふすまで仕切られた部屋

チェックインを済ませ、自分の部屋に向かう。部屋番号だけ教えてもらって後は自分で移動かと恩とたが、ちゃんと従業員さんが誘導してくれて恐縮した。安く泊まらせてもらうのに、そこまでしてもらえるとは。

でもそれも納得だ、比較的直線ルートでフロントから部屋までたどり着ける位置ではあったが、既に魔窟感が漂う。増改築を繰り返したせいか、微妙にまっすぐ歩けない。あみだくじのように、ややクランク状になっているところがある。

あと、びびったのが部屋と廊下との仕切りだ。写真を見てのとおり、障子一枚。

これまで、「ふすま一枚」の宿には泊まったことがあった。古い宿ってそんなもんだよね、これくらいで驚いちゃ駄目だよねと思っていたが、さらにその上をいく「障子」とは。

いや、さすがにここは物置か宴会場だろう、と思ったら、中にちゃんと宿泊客がいた。しかも柱にはちゃんと部屋番号の札が打ちつけてある。まじか、ここ、客室なのか。

で、古い建物なものだから、「窓に面している」なんてことがない。周囲を廊下と壁に囲まれている状況で、開放感なんて皆無だ。

セキュリティ、プライバシーともにほぼ皆無。中でヤラシイことなんて絶対できない。シルエットまるわかりだし。そもそも、廊下を歩くと、そっと歩いたつもりでもドシドシ音が鳴る。部屋の中にいると人の気配が気になって仕方がないと思う。

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