潜入、湯治宿【大沢温泉】

曲がり橋の入口

本来なら、「まずはひとっ風呂」となるはずだ。風呂に入る、というのがこの旅の最大の目的。それをクリアしないことには、ずっと僕の心の「タスクリスト」の中にわだかまりが残る。早く解消したい。

・・・「クリア」とか「タスクリスト」とかいう言葉を使っている時点で、随分お疲れのようで。

というわけで、部屋のすぐ隣にある大沢の湯にダイビング入湯するべきだった。でも、どうにもこうにもこの建物の作りが気になる。全貌がよくわからないので、どれくらいの加減でこの「大沢温泉」に挑めばよいのか、つかみかねる。

だから、先に館内探検をすることにした。ざくっと、できるだけ簡単に。全部見て回るのは後回しにするつもりで。ついでに、マッサージの予約を入れておかなくちゃ。あれだけ安いとなると、マッサージの人気は高そうだ。飛び込みでやってもらえるとは思えないので、早めに手を打っておかなくちゃ。

まずは部屋のすぐ近く、菊水館につながる「曲がり橋」の接続部に行ってみた。あ、なるほど、玄関のような作りになっていて、ここで外履きに履き替えて橋を渡るのだな。天気が悪い日に備えて傘も用意されている。

トイレ

お手洗い。

建物は古いはずなのだけど、お手洗いに限らずいたるところが改築され、きれいだった。そういえば廊下も、年期が入ってミシミシいうような感じではなかった。「古さ」にあぐらをかかず、定期的にやり直しているのだろう。

男性小用トイレの足元には、マットレスが敷いてあった。見たことがないものだ。なんのために敷いてあるのか、わからない。おしっこが染み込んでしまうので、むしろ不潔ではないかと思うのだけどどうなのだろう?マットレスを毎日交換しているのかもしれないけど、そんなことをしないで床をモップで拭いたほうが早そうだ。きっと何か意味があるのだろう。

はだしでやってきた人でも、足元が寒くならないように・・・なわけないな。

炊事場

共同炊事場にやってきた。

広くて、窓ガラスが多い部屋なのでとても開放的だ。油でべたべたしているわけではなく、清潔感がある空間。

まだ時間が早いからか、料理を作っている人は誰もいなかった。

ほーう、こういう作りになっているのか・・・今回自炊の予定は全くないけど、興味深くジロジロと眺めた。

壁および窓側にずらっとガスコンロが並んでいる。そして、部屋の中央に水場と調理台がある。広々としているので、調理に不自由はないだろう。これだけ広い調理台なら、マグロの解体ショーだってできる。よし、次ここに来たときにはやるか!?

ガスコンロ

壁際に置いてあるガスコンロ。ごついコンロなので、火力を最大にすればチャーハン余裕です、くらいにはなるかもしれない。でも、安全のためにそこまでガスが噴出しないようになっているかもしれないけど。火力未知数。

ガスコンロ自販機

そのガスの供給源だが、この手の自炊宿によく見かける、錆びた「ガス自販機」がずらりと並んでいた。これ、自分の部屋にも置いてあったな。ガスホースがにょきっと突き出ていて、箱にはぐるっと回す取っ手がついているだけ。

10円玉を入れると、8分間ガスが出る。寝台列車やフェリーで見かける「コイン式シャワー」のガス版みたいなものだ。8分なので、チンタラしていたらすぐに終わってしまう。しかしざっくりした炒め物を作るなら十分な時間とも言える。

10円8分、というのが安いのかどうかはよくわからない。1時間以上煮込むんです、という本格的な煮込み料理を作るとなると80円くらいはガス代として必要になる。

洗い場

流し部分。

やかんがずらりと並ぶ。

洗剤は備え付けとしてある。部屋の布団や暖房類が事細かにオプション扱いされているのに対して、炊事場については非常におおらかだ。「洗剤は有料」「食器使うなら有料」といった形にはなっていない。自炊宿を名乗る以上、炊事場がらみの設備は当然、という考え方なのだろう。

あと、食器や鍋釜を汚いまま返却されると困るのは宿のほうだ。洗剤をケチるのはよくない、というのも事実だろう。

鍋釜充実

戸棚の中にごっそりと並ぶ鍋。ここは相撲部屋か?と思うくらいだ。ちゃんこ作りまくりも可能。

なんでこんなに鍋があるの?と思うが、おそらく自炊をしている人は筑前煮みたいな煮物を一度にたくさん作り、それを毎回ちょっとずつ食べるのだろう。自宅じゃないし、近くにスーパーがあるわけでもない。毎食毎食、献立を考えて何品も料理を作るとは思えない。そんなわけで、食事の都度鍋が炊事場に戻ってくるというわけではないと思う。

だからたくさんの鍋がなくちゃ、すぐに不足する。おみそ汁用の鍋だって各自必要になるし。

鍋だけでなく、丼などの食器も完備されていた。すばらしい。今回、折角だから自炊もいいな・・・と頭の片隅には考えがあった。しかしやらなかったのは、現地の装備がさっぱりわからなかったからだ。しかし今回その実態がわかったし、基本的に食材さえ持ち込めば、あとは調理器具や食器は宿が用意してくれているということもわかった。次回この宿を訪れる機会があれば、一食くらいは自炊してみてもいい。

やはぎ

フロントの方向に向けて歩いていくと、お食事処やはぎがある。さすがに中休み中であり、今は営業をしていない。

店頭には、居酒屋の壁よろしく短冊メニューがずらりと並び、食欲をかきたてられる。おい、「イクラ丼」なんてものがあるぞ。「いわい鶏の石焼ステーキセット」とか、地元料理である「ひっつみ」の定食とか。

自炊宿に泊まったけど自炊が面倒?しょうがないヤツめ、だったら簡単にメシ用意しといてやったからこれでも食っとけ!・・・という投げやりさが全くない。魅力的なメニューがゴロゴロしてる。チクショウ困るじゃないか。既に「いつ、何を食べるか」は決めているけど、まだ心が揺らぐかもしれん。

もしこのお店が中休み無しの通し営業をやっていたら、「おやつ」と称して食べる予定ではなかった「イクラ丼」などを食べていたかもしれん。やばいやばい。

厨房

やはぎの脇に扉がある。厨房と直結しているらしい。

張り紙を見ると、ここで炊き出しの配給を行っているようだ。ホームレス相手に、というわけではなく、いわゆる「半自炊」と呼ばれるスタイルの方向けの炊き出しだ。

「半自炊」とは、「おかずは自分で作るんだけど、ご飯とおみそ汁は宿に提供してもらう」というスタイルのこと。半自炊をやっている自炊宿・やっていない自炊宿があるが、この大沢温泉ではやっている。

ちなみにご飯1合で160円(0.5合80円)、おみそ汁1杯で100円。

自分で調理するよりは随分割高にはなるが、自炊の手間がかなり省けるので便利だ。利用する人は多いと思う。

炊き出しは一日三回行われており、

朝の部 7:00-7:30
昼の部 11:30-12:00
夜の部 17:00-17:40

となっていた。全体的に時間が早い。湯治宿で自炊する人は高齢者が多い、ということもあるだろうし、「やはぎ」の混雑時間を避けるという理由もあるのだろう。

毎回、提供時間が短いので、うっかり朝寝してしまったり長風呂に浸かっているとメシにあぶれてしまう。しかし半自炊をやるような人はガチの湯治客だろうから、そのあたりに抜かりはないと思う。

お客様各位

「お客様各位」という張り紙が炊き出し口に張ってあったので見てみたら、「炊き出しを米での精算は中止となる」と書いてあった。一瞬、何を言っているのかよくわからず「??」となった。「精算」という字を「精米」と読み間違えたからでもある。自炊宿の人たちは農家も多いだろうから、玄米を持参するのか?なんて考えてしまったりして。

おそらく、これまでは「米1合持参すれば、炊いたご飯が1合もらえる」という物々交換制度があったのだろう。昔の温泉旅館の名残だ。「宿に泊まれば立派な宿メシが出る」なんてのは案外歴史としては浅い。でも、現代においてもそういう制度がまだ残っていたというのには驚きだ。

ごくごく一部の山小屋で、未だに「料理は出すけど、米は自分でもってこい」という場所があるが、それを思い出した。まあ、山小屋の場合は場所柄仕方がない。

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