もっとじっくりと売店を吟味したいところだけど時間切れ。18時からマッサージの予約を入れているので、急いでそちらに向かう。
本来なら、「売店で売られている調味料や食材だけで自炊するなら、どんなレシピで数日間を過ごすか?」と思案するのも楽しいだろう。
本来客室だったのであろう場所の一角に臨時設置されている「リフレッシュ癒」は、角部屋にある。廊下とは障子で仕切られているだけだ。どこが入口なのかすらよくわからないのだが、スリッパの位置から「どうやらここから入れ、ということなのだな」と想像はつく。
あんま士の方がいて、布団の上で施術するのかと思っていたが、ちゃんとマッサージ用のベッドが用意されていた。それも二つ。この狭い空間で二人の施術士が二人の客を相手にするので、かなりぎゅうぎゅうだ。ベッド同士の間隔は数十センチしかないので大変だ。
ちなみに、目が見えない方ではなく、普通の方がマッサージを担当していた。
聞くと、この宿に常駐しているわけではなく、別の日は別の場所でも働いているのだそうだ。このあたりは温泉宿が多いし、そういうところを兼務しているのかもしれない。
マッサージに関しては大変よろしゅうございました。やっぱり、温泉にしこたま入って身体がほぐれた後なので楽だわ。仕事帰りなんかに行ったら、身体がガチガチでほぐす以前の話だ。すでに筋肉がほぐれた状態からの指圧によるより一層のほぐしなのだから、効かないわけがない(プラセボ効果含む)。
19:10
外はすっかり日没。廊下に面した部屋からは、障子を通じて光が廊下に漏れていた。
これ、部屋の中がどうなっているのか、外からでも透けて見えるぞ。中に誰がいてどんな格好をしちえるのか、というのもぼんやりとながら判別がつく。すげえなあ、家族ならまだしも、赤の他人だぞ?
このボカシ感がむしろエロい、とかなんとか夢想してしまうが、ちょっと待って欲しい、現実というのは残酷だ。このボカシの向こうにいるのは「半世紀以上前ならギャルだった」人たちだぞ。
あと、こんな往来がある廊下で立ち止まっていたら明らかに不審で目立つ。のぞき・盗撮というのは自分が他の人からバレないところに隠れてこそ成立するものだ。廊下に突っ立ってのぞくバカがどこにいる?
19:11
さあ、じらすだけじらしておいたので、ようやく夕食だ。「温泉宿の夕飯は18時」というのが定番だし、むしろその時間制約に縛られることをこれまでの温泉療養では良しとしてきた。生活リズムが整うからだ。しかし今回は自ら率先してそのお作法を壊しているのだから、たるんでいるとしかいいようがない。けしからん。罰としてたくさん食べよう。
昼間は灯っていなかった行灯に明かりがついている。「やはぎ」の文字が浮かび上がる。
やはぎの入口にも、「営業中」の札が下がっている。よーしよーし、これはもう営業されるしかないぞ。「飲食代を部屋にツケる」という制度はないようなので、ちゃんと財布を持参しておく。さっきマッサージ代でしこたまお金を払った後だけど僕大丈夫。さすが3泊4日の東北旅行なので、カネはたんまり持ってきてある。なにしろクレカ払いなんてこの館内じゃあ通用しないだろうし。
19:14
やはぎ店内。
ほう?居酒屋のような、食堂のような内装になっている。ここが「宿の食堂」だとはちょっと思えない作り。そりゃそうだ、食堂なんだから。自炊をやらないという人用に用意された飲食施設なのだから当然。
客の数はさほど多くなく、席数はあまりないものの席選びに困ることはなかった。平日だからそもそも宿泊客が少ないという事情があるだろうし、そもそも滞在者の多くは自炊をしているのだろう。あと、ご高齢の方が多いので、夕食なんてとっとと早い時間に食べてしまうのかもしれない。
僕はこの店内の様子を全体的に観察できるよう、窓際の隅っこに陣取った。しかしそれは失敗で、窓から冷気がしんしんと注ぎ込み、寒くて仕方がなかった。そうだ、まだ岩手県の2月夜といえば極寒なのだった。この店内の中央に、大きなストーブがドカンと置いてあるにはちゃんと意味がある。
ああ寒いのう。
もし僕がお酒を飲めるとしても、今この席ならばビール1杯でギブする自信がある。
今更席を移動するのも面倒なので、そのまま我慢する。初訪問のお店の場合、角の席というのはお勧めだ。どういうお客さんがいて、どういう注文がされていて、店員さんはどういう接客をしているのかというのが俯瞰できる。
お茶はセルフサービス。お茶が入ったポットと給水機が置いてあるので、そこからご自由にどうぞ。おしぼりもある。
19:16
「ご自由にどうぞ」の中には、大根を浸けたものもあったので、ありがたく小皿でいただく。ざっくりした切り方で不ぞろいな形。少し唐辛子が入っているようだ。しっかりと漬けられたものではなく、ぱくぱく食べることができてうまい。
うん、今度はこれだけをおかずにご飯とみそ汁を食べよう。
やめろ、お店に迷惑だ。
料理数豊富なこの「やはぎ」、いつ・どの順番で何を頼むのかというのは本当に悩ましかった。
そんな中、最初に選んだのは「やはぎ定食」だった。
お店の名前を冠しているだけあって、このお店の料理のエエトコ取りといった感じの定食だ。皿数がとても多い。
小鉢2点、刺身、ひっつみ、天麩羅、茶碗蒸し、御飯、お新香、フルーツ。
いわゆる宿メシ的な皿数の多さ。「宿に泊まるからには、それなりに非日常感があるメシを食べたいよな」という人もこれなら満足だろう。俺だ俺。
ただ、僕としてはこれを決定するにあたってかなり躊躇したのも事実だ。「エエトコ取り」であるが故に、ちょっと「ベストアルバム感」が強すぎたからだ。単品でバラして、小出しに今後数日で食べていくべきものが盛り合わさっているけど大丈夫か?と心配になってしまう。
とくに気になったのが、「やはぎ定食」の中には「ひっつみ」が入っているということだ。聞き慣れない料理名だけど、どうやら蕎麦粉を使った岩手の郷土すいとんらしい。メニューには「そばアレルギーの方は食べられません。」と大書きしてある。さすがに天下の名湯・大沢温泉でも「そばアレルギーに効果あり」ではなかったか。
これはこれで折角の初体験。単独メニューとして満喫したかった。「いろいろな料理があります!」というやはぎ定食の中の1皿に組み込まれている、というのはなんだか残念だった。
しかしこういう時も「3泊4日」という時間が味方する。「食べてみておいしけりゃ、また別途頼めばいいじゃないか。」と。
これが1泊2日だったら、「全部てんこ盛り」のやはぎ定食1拓だ。しかし、これまでのように2泊3日だったら、中途半端に時間(食事回数)があるので、いつ・なにを食べるのかという戦略性がものすごく高くなる。
で、今回のような3泊4日だったら、もうそういうギスギス感から解脱して、どうでもよくなってくる。もちろん、明日の昼は蕎麦を食べて・・・と段取りはもう決まっているのだけど、美味けりゃ予定をひっくり返したっていいや。何回でもこの食堂を訪れる機会はあるのだから。
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