潜入、湯治宿【大沢温泉】

お茶

「ふすまを開けたらすぐに部屋」という昔ながらの宿の構造にはややびっくりするが、もっとびっくりしたのは準備の良さだ。

先ほども述べたけど、湯治宿って何から何までセルフなのだと思った。その分安いよ、と。しかし、部屋を見ると至れり尽くせりになっていて、恐縮することしきりだった。

ストーブは主の到着を待っているように既にあかあかと灯っていたし、コタツはセッティングされスイッチが入っていた。

コタツの上には給茶セット。お湯が入っているポットがあるし、茶葉も用意されている。

もう、荷解きをしたらデーンとコタツでくつろげばいい。さあ今すぐに!という感じ。「とりあえず生活できるようになるまで、しばらく力仕事がある」と想定していたので、なんと楽なことよ。

ちなみにこれまで見たことがある湯治宿の宿泊棟は、酸ヶ湯@青森県、鉛@岩手県、地獄@熊本県といったところ。単に僕が湯治宿というものを知らないだけなのかもしれない。でもこれ、カプセルホテルなんかよりお得だ。

・・・まあ、大沢温泉が駅前にあるわけじゃないので、カプセルホテルと比較するのはそもそも間違っているのだけど。

戸棚

さすが湯治宿だなあ、と思ったのは、部屋の一角に古びた戸棚があったことだ。

最近の家具屋に行くと、戸棚のことを当然のごとく「キャビネット」と呼ぶようになっていて時代を感じるが、さすがにこいつを「キャビネット」とは呼ばせないぞ?これはどう見ても「戸棚」だ。または「タンス」か。

中に何か入っているかな?と思って開けてみたが、何も入っていなかった。要するに、長逗留するお客さんが、生活の荷物を置く場所としてお使いください、というわけだ。ホテルじゃないので、聖書なんぞは置いていない。一応念のために戸棚の裏を見てみたけど、変なお札が貼ってあるようなことはなかった。

この引き出しは使えそうだ。財布とか携帯とか置いておくにはいい。かばんの中に入れておくと、留守時にかばんごと盗まれたら一貫の終わりだ。

・・・と思って、敢えてここに財布を置いてみたが、途中でやめた。最終日、ここに財布を置いているということを忘れてしまい、そのまま立ち去ってしまいそうだからだ。良かれと思って慣れないことをしちゃいかん。

電源

テレビ台も随分年期が入っているなー。それはそれで面白いのだが、やっぱり古い建物だと思うのが、電源の少なさだ。部屋にはコンセントが一つしかない。しかも壁に埋め込まれている形ではなく、豆腐のようなクリーム色のやつ。それが一口。

もちろん一口では足りないので、三又コンセントを増設して、テレビとコタツに充当している。もうこれであっぷあっぷだ。もう一つ口が空いてはいるけど、ここにうっかりドライヤーなんて差し込もうものなら、言うまでもなくブレーカーが飛ぶ。古い建物なので、自分の部屋だけでなく、建物全体のブレーカーが飛ぶかもしれん。油断ならん。

お願い

案の定、コンセントの上には「電気を使う場合は帳場に申し出てくれ」という掲示が貼ってあった。電気代を取るのか、それとも利用する内容を確認の上低電力であればOKとするのか、詳細はわからない。でもいずれにせよ、ドライヤーは駄目だろう。まあ、短髪の僕には無縁の存在だけど。

戸棚と布団

布団が既に用意されている。シーツも枕カバーもセット済みで恐縮。

押入れがあるが、おそらくこれは「昼間はここに布団を片付けてね」ということなのだろう。実際には、一人で暮らすには広すぎる部屋だったので、一日中布団は出しっぱなしにしていたけど。

窓の外

窓側の障子を開けてみた。おう、川沿いの景色が楽しめると思ったら、真正面に橋がある。これは「曲がり橋」という名前の、自炊部と対岸の菊水館とを結ぶ橋だ。

こりゃいかんな、窓を開けていたら通行人と毎回目が合ってしまう。プライバシーもへったくれもない。部屋の中で全裸ヨガとかやっていたら、変態として通報されてしまう。いやまあ、そんなことをやる趣味はもともと持ち合わせていないけど。

そもそも、窓がバーンと大きい分、しんしんと押し寄せてくる冷気が尋常ではない。基本的にこの障子は閉めっぱなしにしておかないと駄目だな。

菊水館

窓の外を眺める。

曲がり橋の名前の通り、一回折れ曲がった橋になっている。風変わりな橋だ。なにげにこういう橋は見たことがない。

そしてその向こうには、菊水館。こちらの宿は基本的に二食付きとなっている。「湯治部で素泊まりして、食堂で二食食べる」というのと、「菊水館で二食付きにする」のではどっちが安いか?というのも十分に検討したけど、結局湯治部のほうが安いし自由度が高い、という結論に至り今ここにいる。

大沢の湯

もう一方の壁面にある障子を開けてみたら、こちらからも豊沢川の眺めを楽しむことができる。そして・・・おっと、「大沢の湯」が見えるぞ。

さすがに建物に阻まれて露天風呂全景が見えるわけではないけど、湯面が見えるとは。しかもここ、男女混浴だし、夜は女性専用入浴時間だってある風呂だぞ?

ラッキー!

・・・なんて言えるわけがない。むしろこうも堂々と見える状態だと、障子なんて開けるわけにはいかない。うっかりその状態で窓から顔を出し、入浴中のご婦人と目と目があったら大変にやばい。

なにしろ、自分の部屋が自炊部の最果てにある角部屋だ。入浴中、「ほーっ」とため息をつきつつ斜め上を見上げた先にあるのが、この部屋ということになる。風呂の覗き見なんてできるわけがない。もともとそんなことをする気もないが、誤解を招かないように障子は閉めっぱなしにしておかないと。うっかり開けておくと、「あそこの部屋の人から覗かれちゃうよね、あの部屋に泊まっている人は誰なんだろう?いやよねぇ」なんて噂をされそうだ。

結局、「角部屋一等地」であるにもかかわらず、滞在期間中はほぼすべて二方向の障子は締め切りになっていた。せいぜい換気のために開ける程度で、それ以外はぴったりと締め切った。

一方向は橋の通行人から覗き込まれないように。
一方向は露天風呂痴漢と勘違いされないように。

冷蔵庫

旅館の窓際には、椅子と机が置いてあることがよくある。景色を楽しみつつおくつろぎください、ということなのだと思うが、この部屋にはそのような「応接セット」的なものは置いていない。単なる板敷きだ。

じゃあなんでこんな無意味な空間があるの?と思ったが、冷蔵庫があった。

冷蔵庫の中

さすがに中には何も入っていない。必要なものは売店で買ってきたり、外から持ち込んだりすればいい。

ガスコンロ

そして冷蔵庫と向かい合わせの場所に、ガスコンロが置いてあった。あ、この宿って部屋で調理するのはOKなのか。

確か炊事場がちゃんとあるはずだけど、部屋にもある。おそらく、お湯を沸かす程度のことを想定してのものなのだろう。ここでガシガシと中華鍋を振るって炒め物を作る、なんてことはさすがにやっちゃいけないだろう。

本格的に自炊をやりながら湯治ライフを過ごす人は、この板敷きの間を「キッチン軒食材置場」としているのだろう。畳の間の居住空間とは別、というわけだ。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください