12:57
そのまま大沢温泉の敷地から外に出てみた。この温泉旅館の周囲にはこじんまりとした集落が形成されているようだが、その中で神社があるからだ。先ほど見た温泉神社よりも大きな、立派な神社っぽい。
神頼みで、「早く心と体が楽になりますように」とお願いをしたいわけじゃあない。でも、神社くらいしか目指す場所がないので、とりあえずの散歩最終目標地点としてその神社を設定しただけだ。
幹線道路に出てまず最初にやったのが、バス停の停留所探しだった。最終日は、初日と同じ無料送迎バスではなく、路線バスに乗って花巻駅に戻ろうと思っている。なのでそのバス停を見つけなくちゃ。まさか宿の玄関先まで路線バスが横付けにされることはあるまい。
探してみたら、雪に埋もれた状態で発見された。さすが雪国、プレハブの待合室が用意されているんだな。これなら雪や雨でもしのぐことができる。
バス停の位置を確認した後、幹線道路を渡って神社方面を目指す。地図なんて手にしていないので適当に歩く。
このあたりは夏から秋にかけて蕎麦畑になるらしく、民家の数は少ない。
12:58
雪原の中を歩くおかでん。
ヒートテックを上下着込んでいるとはいえ、浴衣に丹前という格好はどう見てもおかしい。合成写真か?と疑われてしまうくらいの違和感だ。あと、地元民からしたら「アンタ頭おかしいのか?」と言うかもしれない。
でも案外これが寒くないのだな。今日はお日柄がよろしいようで。あと、さすがにずっと温泉に入り続けているせいか、身体全体の血行が良くなっているというのも理由だろう。
温泉にいるときは、意地でも浴衣を着るというのが僕の流儀だ。折角の旅先だし、そうしないともったいないという貧乏根性からだ。それはこの雪の大地においても一切ブレず、ジャケットすら羽織らずに堂々と行進中であります。
神社があると思しき方面に、看板がたくさん貼り付けられた建物が見えてきた。なんだろう、あれは?
いわゆる昭和レトロを標榜する際に多様される、キンチョールとかオロナミンCといったホーロー看板が壁一面に貼ってある。広告効果満載だ。2000年頃のwebサイトみたいだ。チカチカする小さなバナー広告だらけのサイト、あの当時は多かったな。
13:00
近くで見てみると、建物の側面まで看板でびっしりだ。なんだこりゃあ?
「雪から建物を守るために、冬の間はありあわせの看板を貼り付けているんです。雨戸みたいなもんですはっはっは」
という類にしてはやりすぎだ。というより、単なる奇人変人の趣味にしては大げさすぎる。ホーロー看板は高値で取引されることもあるものなので、これだけ集めるのはかなりの手間隙とお金がかかったはずだ。ではなぜそれがここに?
建物は閉まっていて、人の気配はない。
日本一のホーロー看板の展示館をめざしています。ご協力お願いします。
昭和の学校
ここにも「昭和の学校」か!先ほど、廃校のものと思われる体育館でもこの名前を見かけたが、ホーロー看板も集めていてごらんの状況というわけか。いずれ、看板が集まったら野ざらしではなくちゃんとした展示室に飾るようにするのだろうか?
ちなみに、これは僕の個人的趣味なのだが、ホーロー看板は嫌いだ。ホーロー看板だけでなく、「昭和レトロでござい」という雰囲気が嫌いだ。単にあまのじゃくな性格だからだ。映画「三丁目の夕日」みたいなのはもっとも苦手だ。あと、新横浜ラーメン博物館のような、昭和の雰囲気を再現しましたといった施設もしかり。
昭和時代に建築された温泉旅館など、「ボロいけど味がある」というのはむしろ好きだ。昭和そのものがイカンと思っているわけではない。「どうだ、昔のものは味わい深いだろぅ?昔は良かったよなぁ」といわんばかりの臭い演出が伴うもの、がイヤなだけだ。
古い温泉旅館を僕が好むのは、宿側に「レトロ感出したらウケる」なんて思惑が一切無いからだ。単純に歴史を積み重ねており、単純にボロい。それが味わい深くて大好きだ。
さてこの昭和の学校だが、どこまで「昔は良かった感」を出すかわからないのでなんともいいようがないが、「日本一のホーロー看板展示館」と思い切った覚悟をしているのはいいと思う。単に昔の町並みを(現代風に美化して)再現しました、というのには留まらないのだろうから、これからに期待。
ホーロー看板小屋を通り過ぎたら、大沢山祇(おおさわやまのかみ)神社の鳥居が見えてきた。
大山祇(おおやまづみ)神社、という神社は瀬戸内海の大三島にあり「日本総鎮守」として名高いが、それにもう一文字が加わって「大沢山祇神社」というのがこの神社の名前。大沢の総鎮守ということか。
鳥居は一つだけでなく、境内に入ると二の鳥居もある。本殿は豪華絢爛というわけではないけど、古くから信仰されてきたんだろうという印象を受ける。
「印象」じゃねぇよ、ちゃんと歴史を調べろよ、と思うけど、なにせ周囲が雪に埋もれていて、地面が玉砂利なのか石畳なのか土なのかさえもわからん。
「へええええええ」
と白い吐息を出しながら感心しまくったのが、本殿前のお賽銭箱だった。すっぽり、木の箱で覆われている。場所が場所でなければ、これがお賽銭箱だとは思えないくらいだ。そもそも、形が縦長で、一般的な横長のイメージとは異なる。
たぶん、よくあるお賽銭箱だと、格子状のところから雪が振り込んでしまい賽銭箱が雪の塊になってしまうからだろう。宮司さんがいざお賽銭を取り出そうとしたら、お金が氷漬け!なんてことになると、解凍される初夏のころまでひたすら待ち続ける羽目になるかもしれん。
そんなわけで、おそらく冬の間は「お賽銭箱カバー」で武装しているのだろう。よく見ると、ちゃんと箱の上にはお賽銭を入れる穴が開いていた。まるで貯金箱みたいだけど。
13:02
このお賽銭箱があふれんばかりにお金を投げ入れたかったけど、そんなお金はあいにく持ち合わせていなかった。財布の中にあった小銭で勘弁して。
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