宿の人に案内されながら、部屋を目指す。
歩いているところは、自炊部の目抜き通りとなるメインストリートなのだけど、ご覧のとおり狭い。人とすれ違うときに喧嘩っ早い人ならにらみ合いになりそうなくらいの幅しかない。この辺りが歴史の産物なのだろう。
むしろ、こういう廊下のほうがワクワクする。非日常感があるから。
・・・あっ、いかん、「ワクワク」とか「非日常感」とか口走っている。平常心で温泉療養のはずなのに。でもこりゃもう駄目だー。ある程度は許せ。今回だけは、許せ。せめて3泊4日なんだから、2日目から本気出す。それでも、2日はゆっくり療養できる。たぶん。おそらく。きっと。
障子の部屋もあるけど、ふすまの部屋もある。とにかく開放的だ。この部屋なんて、角部屋一等地なものだから、部屋のうち二方向がふすまになっている。片方は壁にしても良かったんじゃないのか?と思うが、壁にすると面倒やんけ!それよりふすまのほうが安いし楽やろ!という論法なのかもしれない。
ふすまの一角に、ちょこんとスリッパが置いてある。この部屋の住人のものらしい。ちゃんとここにも人はいる。
廊下にスリッパが出ているということは、ふすまをガラッと開けたらすぐそこが畳の部屋だということだ。玄関的な部分は存在しない。なんなら、ガラッと開けて足を一歩踏み入れたら、そこに寝ていた人を踏みつけてしまってギャー、なんてこともありえる。足元注意。
それにしてもこれは防犯上なかなか大変だぞ。スリッパがない=部屋には誰もいない、ということを内外にアピールすることになる。盗人さんいらっしゃい、だ。
「女性の家だけど、防犯用にベランダに男性下着を干す」という話を聞いたことがあるけど、それと同じ感覚で「部屋の前に、いつもスリッパを置きっぱなしにする」という防犯対策もよいかもしれない。
先ほどの「二方向がふすま部屋」の脇に従業員さんが案内するので、すわこの部屋が自分の部屋じゃあるまいか?「相部屋でございます」と言われるのではないか?と一瞬不安になった。
もちろんそんなことはなく、「靴はこちらに置いてください」という指示だった。二階に上がる階段の真下、通路の隅っこにカラーボックスのような下駄箱があった。
建物の玄関に靴を置くのではなく、部屋の近辺に靴を持っていく・・・というのは、山小屋で時々見かけるパターンだが、温泉旅館では初めての体験だ。他人の靴と間違えられることがないし、自分の靴を探しまくる必要がない。むしろこういう方が気楽でいい。下足番の方が靴をわざわざ出してくださるような宿は、堅苦しくて僕には向かない。
それにしても、モロにカラーボックスだな。
フロントからひたすらまっすぐ(途中若干ジグザグするけど)歩き続け、自炊部の最果てまでやってきてしまった。正面は突き当たりで、大沢温泉を有名たらしめている露天風呂「大沢の湯」に通じる扉が見える。
「こちらの部屋になります」
と先導役の従業員さんに言われたのは、その突き当たりのすぐ脇にある部屋だった。えっ、こんな好立地を僕に?
仰天する。
日本有数、というと言いすぎかもしれないけど、それくらいの有名露天風呂から眼と鼻の先に居を構える。もうこれは、風呂アンド自堕落アンド風呂、の繰り返しをひたすらやれと言わんばかりだ。
先月、四万温泉積善館で、名物内風呂・「元禄の湯」から徒歩1分足らずで到達できる部屋に宿泊した。それはそれで大変贅沢な日々だったが、今回はそれ以上だ。何しろ、部屋から出たら徒歩数秒で大沢の湯(の入口)だ。
もうこれは、「露天付きの部屋」に宿泊しているのと大差ないではないか!!
うおおお、療養するぞー
「療養する」と「うおおお」という、到底マッチングしない言葉を思わず並べてしまう。
廊下から部屋を覗き込んだところ。
おっ、既にコタツとかストーブがセットされているぞ。ふとんも見える。楽天トラベルで予約したプランに含まれているものは、既にスタンバイOKだった。
てっきり、
「フロント脇にコタツがありますので、取りにきてくださいね。ストーブは倉庫に、布団とシーツはリネン室にありますのでセルフでー」
なんて言われると思っていたのだけど。あれれ、湯治宿ってもっと殺伐として、「自分のことは自分でやれ」の世界だと思っていたけど違うんだな。ありがてぇありがてぇ。ついでだから部屋食を頼む。
いや、そうなると湯治でもなんでもないので、部屋食はいくらなんでもよせ。
この部屋も例外なく、スリッパは廊下に置くことになる。セキュリティには気をつけないと。
ずずぃと部屋の中に入る。
思わず、従業員さんに
「えっ、本当にこの部屋でいいんですか?」
と聞いてしまったくらいだ。
広すぎないか?これ?
いや、誰に聞いているのか自分でもわからんけど、広すぎる。えええ、こういうのって、もっと狭くて薄暗いものだと思ってた。この部屋、広いし明るいぞ。これで一人部屋って、本当に許されるのか?
「ああすいませんすいません、部屋を間違えていました」
と後で従業員さんがやってくる前に、部屋中に自分の荷物を広げて散らかしておこう。
この部屋は「四方を壁とふすまと障子で仕切られている」ということはなく、二方向が外だ。建物の角部屋だからだ。すばらしい!
なんだか不気味ではある。僕は比較的良い部屋を引き当てることが多く、「楽天トラベルで予約する客は良い部屋を優先的にあてがっているのか?」と思うことがあるくらいだ。口コミで悪いことを書かれないためでは?とかなんとか。
たぶん、「良い部屋ばかりあてがわれる」というのは僕の妄想に過ぎないのだろう。勝率でいったら3割とか4割なのだと思うが、それでも「おお!これはいい!」という部屋に当たると、それは後々まで良い思い出として記憶に残るものだ。今回がまさにそれ。でもこれ、贔屓目を除いても最高に良い部屋だと思うぞ。ありがとう大沢温泉。
部屋を別角度から。
ふすまには、一応金具のフックが付いている。昔はあちこちで見かけたフックだが、最近はあまり見なくなったなあ・・・としみじみと眺める。
これでセキュリティは万全!
いやいやいや、このフックは当然部屋の内側にあるものなので、「誰かが部屋の中にいる時」だけ使えるものだ。自分が不在時に、荷物を盗られないようにするという機能はない。
せいぜい、部屋の中でヤラシイことをするとか、そういう時でもないとこのフックはあまり意味をなさない。・・・と思っていた。しかし実際は、屈強なデブ男おかでんが部屋にいるときであっても、このフックは大活躍した。なにしろ、大沢の湯に行き来する人が必ず通る「目抜き通り」に面している部屋だ。通りすがりのババアなんぞに、「あらこの部屋の中ってどうなってるのかしら」とか言いつつガラリと開けられたらイヤだ。普通の旅館部屋のように、玄関があって、ふすまがあって、その先に居室があるという構図ではない。ガラッとふすまを開けられたら僕がすぐにニーハオだ。非常に気まずい。
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