部屋に置いてあった、大沢温泉自炊部マップ。
まるでRPGゲームのダンジョンのようだ。上の階があるし、棟が並列に並んで存在している。廊下を挟んで両側に部屋があるところもあるし、ぐるっと廊下に取り囲まれた中に客室がある、「廊下と壁に囲まれた部屋」もある。
見ろ、これを見ると我が部屋は圧倒的ではないか。
一人泊でこんな贅沢な部屋に泊まらせてもらって、本当に良いのだろうか?あらためて、部屋の鍵を厳重にかけておく。「すいませんすいません、部屋を間違えてました」と宿の人がやってこないようにするためだ。
前回泊まった四万温泉積善館もダンジョンではあったが、今回もそれ以上のダンジョン宿を選んでしまった。また館内探検がはかどるな。やめとけよもう。ワクワクが止まらないじゃないか。
まあ、3泊4日ともなれば、館内探検なんてわずかな時間だ。あんまり目くじらを立てることはないのだけど。
自炊部だけでこの有様。このほかに「山水閣」と「菊水館」があるのだから、フルマップともなればA3用紙が必要になるんじゃあるまいか?
完全に観光に訪れてしまったなあ、まいったなあ療養どころじゃないなあ、とあらためて実感したのが、「お風呂のご案内」ページだ。
もちろん事前に、この宿にどれだけ浴室があるかというのは調査済みだった。多い、というのはわかっていたけど、いざ宿に到着して、「さあどの風呂から入る?」となると、目移りしてかまわない。
ご飯を食べるとき、「何を食べようかな・・・」と箸をふわふわさせてしまう「迷い箸」はマナー違反、とされる。僕は今まさに「迷い湯」状態だ。このまま、宿の中をウロチョロしてしまいそうだ。
「お風呂のご案内」にて紹介されているお風呂は、
(1)大沢の湯(混浴露天風呂) 自炊部館内
(2)薬師の湯(男女別内風呂) 自炊武館内
(3)かわべの湯(女性専用露天風呂) 自炊部館内
(4)豊沢の湯(男女別半露天風呂) 山水閣1階
(5)南部の湯(男女別内風呂) 菊水館
の5カ所。自炊部に3カ所、山水閣と菊水館にそれぞれ1カ所ずつある。「かわべの湯」は女性専用の露天風呂なので僕が股間をうまいこと隠して「女の子でーす」と主張でもしない限りは入浴が無理だ。なので実際は4カ所となる。
「風呂によって源泉が異なり、泉質が違います」なんて話であれば、たぶん今の僕ならヘトヘトになるまで「作戦会議」を開き、入浴順番や時間を考えたと思う。しかし、幸いにもどれも同じ泉質のようなので、その点は心配がない。初日は一通り順番に入浴し、二日目からは気に入った湯を中心に利用すればそれでいい。というか、現実的には部屋から出てすぐのところにある「(1)大沢の湯」を利用することになるのだろう。
パンフレットによると、山水閣には3つの浴室があるらしい。しかし、そのうち自炊部および菊水館に宿泊している人が使えるのは、(4)豊沢の湯だけだ。ハイソな宿、というスタンスを菊水館は明確に打ち出しており、山水閣以外の宿泊客はお断り、というわけだ。
それぞれの湯には入浴可能時間が設定されている。清掃時間以外は夜中でも入浴できる湯があれば、夜はやっていない湯もある。そういうのを見ると、また僕の心がざわざわする。どの順番で入浴すればベストなのか?入浴機会の最大化が図れるのか?・・・と。
でも、その「ざわつき」はさほど大きくはならなかった。これが一泊二日の滞在なら、本当にパソコンにデフラグをかける感覚で必死に「最適な入浴順番と時間」を考えないといけないだろう。しかし今回の僕には3泊4日という悠久の時が確保されている。「今日が駄目なら明日がある、明日が駄目なら明後日だってある」と思えば気が楽だ。さすがの僕でも、「作戦なんて立てるだけ無駄」という気にさせられる。
そうか、温泉療養をするならば、それなりにまとまった期間というのは必要なのだな。僕みたいにあれこれ考えすぎてしまう人間にとっては、「時間の余裕」はむしろ自分を楽にする。「時間がない」と強迫観念を持つからこそ、短時間でベストを尽くそうとして悶々としてしまう。
館内設備と温泉に、探検心をくすぐられ気持ちが昂ぶったところで、ページをめくる。今度は「寝具等の貸出について」と「共同炊事場」の説明書きが待ち構えていた。おおう、湯治宿ここにあり、だ。ますますテンションが上がるな。
「寝具等の貸出について」は、僕が宿の予約の際血眼になって計算した「宿の備品レンタル料」が一覧で表示されてあった。
掛け布団200円、毛布200円・・・。
レンタルしようとすればいくらでも借りられる。「敷布団200円、敷布団が高級高反発マットレスなら400円、ウオーターベッドなら500円」のように、「付加価値を付けて高いものを提供して稼ぐ」というわけではない。ひたすら、「必要最低限のもの」が一覧に並ぶ。
さすがに座布団はレンタル対象になっていなかった。それすらレンタルにするのは、宿としてどうかと思ったのだろう。
そういえば、別の湯治宿だけど、「鍵付きの部屋だと+300円」というのがあったな。とにかく、あらゆるオプションが存在するものだ。「アメニティの有無」程度で一喜一憂するなんて甘っちょろいとしかいいようがない世界だ。
そんなわけで、湯治宿は冬になれば宿泊料金が跳ね上がることになる。自前で用意できるならかまわないのだけど、宿のオプション品をレンタルすると、あれもこれも借りることになるからだ。
今回で言うと、冬用装備品として、毛布200円、丹前ゆかた200円、コタツ300円、ストーブ602円。つまり、夏と比べれば一泊あたり1,300円くらい余計にお金がかかることになる。もっとも、泊まっている部屋に冷房なんて存在しない。夏になると「扇風機200円」なんていうメニューが登場するのかもしれない。
「共同炊事場」の解説も興味深く読んでみる。焼き物をする場合は換気扇を回してね、といった話が書いてある。鍋釜は備え付けがあり、自由に使えるらしいのだが、包丁だけは炊事場に置いていないので、事務所に赴いて借りてくれ、という。やっぱり刃物が置いてあると物騒なのだろう。美味そうな豚汁を作っているばあ様に包丁を突きつけ、
「おいお前の豚汁美味そうだな、よこせ」
「やめてください!これはなけなしの金で買った食材なので・・・」
「うるせえ、この刃物が見えないのか」
なんてことになったら悲劇だ。
なお、この解説には「電子レンジの使い方がわからなかったら事務所に申し出てくれ」とも書いてあった。いまどき高齢者でも電子レンジは使えると思うのだが、そういう常識すら超越するような伝説のオジイ、オババもが訪れるのが湯治場なのだろう。ご長寿、たいへんに結構なことだ。
自炊部館内設備のページも、面白い。
コインランドリーが館内にあるよ、という説明だった。このコインランドリーを当てにしているので、今回の旅行で持参した衣類の数は意図的に少ない。
宿に泊まりながら、衣類を洗う。なんだか新鮮じゃないか。
当初、「えーと、初日はこれを着て、二日目はこれを着て・・・寒いかもしれないからヒートテックを余計にかばんに詰めて」などと思案しなくていいから楽だ、と思っていた。洗濯機があるんだから。しかし実際は、「宿で3泊もする」という経験がなければ、「厳冬期の北国の宿に泊まる」経験もないし、衣服を洗濯しながら暮らす、というのもない。そうなると、むしろ荷造りの際に従来にない「一人作戦会議」が発生してしまい、疲れた。
いかんなー、早く風呂に入って癒されないと。あれこれ考えすぎだ。
ちなみに洗濯機は200円、乾燥機は100円。乾燥機を回すほうがはるかに電気代がかかりそうだけど、お安くなっている不思議。たぶん、長逗留する人はハンガーなど持参していて、部屋干しするのだろう。乾燥機なんて贅沢だ。
左側のページには、朝ごはんの紹介があった。おっ、朝定食620円だ。これはチェックインの際に3回分予約済み。お食事処「やはぎ」で提供されるのだが、事前予約が必要だし、朝はこの「朝定食」しかメニューが存在しない。
えーと、「小鉢、焼き魚、おひたし、みそ汁、お新香」と書いてある。いいね、これだけあって620円というのは嬉しい。なお、オプションとして味付け海苔、生卵、納豆があるらしく、こちらは別料金の模様。
そのお食事処「やはぎ」の紹介も1ページ割かれている。どうやら名物は「十割水車そば」らしい。これは是非食べないと。あと他にもいろいろメニューがあるのだが、このページには蕎麦の紹介だけで手一杯。さあ、今晩から3泊4日の間に合計5回、自由裁量によるメニュー選びができる。いつ、どのタイミングで何を食べるか・・・というのは高度な戦略性を持つ。よく考えないと。
いや、やめろやめろ、考えるなってば。そういうことをやっているから・・・
といっても、もう考えちゃった。あーあーあー。「揚げ物を食べたら次はもう少しさっぱりしたものの方が」とか「肉が連続しないように」とか、いろいろ考えすぎちゃったよもう。パトラッシュ僕はもう疲れたよ。
大沢温泉のあちこちにある風呂場の紹介。大沢温泉のwebサイトにしろこういうパンフレット的な資料にしろ、頻繁に「館内地図」が登場する。そうでもしないと迷子になるからだろう。
自炊部だけでも随分大きな印象を持ったが(写真黄色部分)、「高級宿で下々は立ち入れない」山水閣は超巨大だ。航空母艦クラスじゃあるまいか、と思うくらいだ。しかし、山水閣の端っこ(写真左端)の部屋なんぞに泊まった日にゃ、自炊部端にある大沢の湯や川向かいの南部の湯に行くのはちょっとした大陸移動だ。お年寄りは途中で息絶えるんじゃあるまいか。
おっ!マッサージがあるぞマッサージが。
僕はもともとマッサージが好きなのだが、特にメンタルの調子が崩れてくると揉みほぐしに飢える。首から背中にかけてガチガチに固まってしまうので、ひどいときは毎日通ってしまうくらいだ。
普段はお金がもったいないしめったにマッサージなんて行かないのだけど、体調が悪いときは快楽に溺れるんだと思う。揉まれずにはおれん、といった感じ。
温泉に行く、というのは「ひたすらぼんやりする」という目的もあるけど、凝り固まった身体をほぐすという意味合いもとても強い。逆に言えば、温泉に行きたがる時期というのは、僕が精神的に参ってしまっているときだ。
実際、このサイトの連載でも、「草津二十番勝負」なんかで僕の不調っぷりがありありと伺える。表面的にはアクティブに活動しているように見えるけど、「おかでんが神経質な状態になっている」という観点でこの記事を読み返すと、なるほどそのとおりだ!とわかるはずだ。
それはともかく、なんだこれ!魅力的な料金設定じゃねぇかこの野郎。10分1,000円、というのはまあそんなものだと思う。繁華街の駅前マッサージ屋さんならまだしも、宿併設のマッサージなら相場どおりだ。しかし、このまま正比例で時間とお値段が上がっていくのではなく、施術60分なら4,000円となっていた。安い!これは受けなければ!
アホや。折角平日に湯治宿に泊まって、宿泊費を浮かせよう!としてるのに、新幹線で往復するやらマッサージ受けるやら。でも、身体がみしみしいってるんだよ。心が悲鳴を上げてるんだよ。
いや、心が悲鳴をあげているというのはちょっと嘘。昨年12月の那須湯本の頃と比べりゃかなり良くなってる。でも、理由なんてどうでもいいんだよ。マッサージ受けるぞ、マッサージ。温泉にしこたま入って、ほぐれたところでモミモミぐりぐり。日ごろのうっ血がいっぺんに解消されて、血行がよくなりすぎてくも膜下出血でも起こすんじゃなかろうか。ときめくなあ、もう。
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