19:44
いくら宿メシの形態をとっている食事とはいえ、所詮は一人メシだ。あっという間に食べ終えて、「やはぎ」を後にした。
そのまま部屋に戻らないで、まだ見ていない「入浴可能なもう一つの湯」、山水閣の「豊沢の湯」を目指してみることにした。
帳場を過ぎると、板張りの床から白い床に切り替わった(写真手前側が山水閣方面、奥が自炊部)。
山水閣はどうやら靴のまま各部屋の玄関まで歩いて行くスタイルなのだろう、自炊部との境界線には「土足厳禁」の注意書きが出ており、履き替えるためのスリッパが用意されていた。
おっと、こんなところに貴重品ロッカーが。
自炊部の部屋はあんな感じなので、財布とか鍵といった貴重品をここに預けておかないと、おちおち風呂にさえ行けやしない。盗もうと思えば至って簡単だからだ。何しろ、部屋に人いるか・いないかということさえも、スリッパの有無で外から判断がついてしまう。
でも、結局僕はここは利用していなかった。面倒臭かったからだが、ものすごくチキンレースだ。本来なら、面倒臭がらずにちゃんとここに預けないとだめだ。反省して、翌日からはここを利用するようにした。
面倒くさがりの僕でさえ、びびって貴重品ロッカーを使う・・・それがこの大沢温泉の開放感よ。
山水閣に通じる渡り廊下の途中に、コインランドリーがあった。洗濯機、乾燥機ともに2つずつ。がらんとしたスペース。
それもそのはず、先ほどお世話になったマッサージ屋はもともとこの一角に居を構えていたらしい。それが何かの事情で今の場所にお引っ越ししたらしいので、今やこの状況。やあ、洗濯物をいくらため込んでも安心だなこの広さなら。
山水閣は格が違うんだぜ、と言わんばかりだ。扉からして違うし、看板だって安っぽさがない。思わず土下座したくなる。
一体どんな金持ちが宿泊しているというのか。かたや自炊部で財布をすられるんじゃないかとヒヤヒヤしているというのに、こっちじゃ優雅に召し使いを使ってルームサービスでもやってるんじゃあるまいか。
「・・・あれ?」
明らかに自炊部とは異なる材質の扉に、張り紙が貼ってあった。曰く、自炊部のヤツはここから先に入るな、ということらしい。ありゃー。ここでも思い知らされる「格」の存在。ちなみに自炊部だけでなく、菊水館の人も立ち入りは禁止。
「じゃあじゃあ、山水閣のヤツらは自炊部に来るなよ!これでおあいこだ!」と意地を張りたいところだが、それはそれこれはこれ。山水閣の人たちも大沢の湯にやってくるし、「やはぎ」を利用することだってできる。なんてこったい、金持ちやりたい放題じゃあないか。
では山水閣にあるという豊沢の湯へはどうやって行けばいいの?と思ったら、階段を下りろという。山水閣一階部分だけは他の宿泊棟の人たちにも開放されているっぽい。
19:46
あ、豊沢の湯発見。
突き当たりには緑色ののれんが下がり、「山水閣」と染め抜かれている。
やはりここにも、「立ち入り禁止」の札。ゾーニングがきっちりしている。
で、その立ち入り禁止札の向こうには、なにやらお高そうな内装がちらっと見える。気になるけど、さすがに自炊部丸出しの浴衣を着用している輩が山水閣に入り込むわけにはいくまい。ここから先に侵入するのはやめておく。
豊沢の湯の前にはカップヌードルの自販機。そう、これが自炊部ですよ。山水閣とは訳が違うのですよ。
豊沢の湯の脱衣場。さすが高級宿?の山水閣にあるだけある。装備がやたらとしっかりしている。下駄箱のようなところに脱衣を投げ込んで入浴する、大沢の湯とは大違いだ。
「半露天風呂」という案内だったので、それは何だろう?と不思議だった。出窓みたいな感じで、湯船が外にせり出しているのだろうか?とか考えた。しかし正解は、「大きなガラス戸によって、外と仕切られた風呂場」だった。天気が良い時はそのガラス戸が開放され、露天風呂風になる。しかし、天気が悪いと戸は閉鎖され、ガラス越しで眺望の良い内風呂、ということになる。
この時期は・・・冬だからな、滞在期間中、昼でも夜でもガラス戸が開け放たれることは無かった。完全内風呂。さらに、湿気でガラスに水滴が付くものだから、眺めは良くなかった。
さすがに大浴場なだけあって、この浴槽は源泉掛け流しではない。その他の湯が皆源泉掛け流しなのに、ここは違う。なので、わざわざここまで入浴に訪れる必然性は僕にとってほとんどなさそうだ。
20:17
自炊部玄関の夜。
しん、と静まりかえった建物。
夏だったら虫の鳴き声があたりに響き渡るのだろうが、冬なのでそれもなし。ひたすら静かな空間と、振り向くとあちこちの部屋から漏れる明かりを、少しだけ楽しむ。長時間いると、身体が冷え切ってしまう。
自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら、部屋のすぐ前に椅子が置かれ、女性従業員さんが座って警備員風に待ち構えていた。ご丁寧にストーブも用意しており、長期戦の構えらしい。
何でですか、と思ったら、そうだった20時から21時の間、大沢の湯は女性専用になるんだった。男性が混じり込まないよう、こうやって見張りを立てているというわけだ。
そこまでやらなくても、「ただいまの時間は女性専用」などの札を掲げておけば済む気がする。実際、他の温泉宿でもそうやっていると思う。のれんの色を変えるとか。
それでもこうやって見張りが廊下に陣取っている、ということは、過去に「酔っ払った男性が女性時間中に突撃」などとしょうもない事件があったのだろう。
さあ困ったぞ、僕はこの「守衛さん」が陣取っている背後に部屋があるんですけど。通り抜けるときにに「あ、今は女性専用ですから」とか言われたら、なんかちょっと恥ずかしい。
・・・と身構えたが、何も言われることなく、すんなりと部屋に入ることができた。
20:37
今が女性専用時間、ということは、だ。
部屋にあるこのふすまを、そーっと・・・ほんの少しだけそーっと・・・開けば、女性だらけの露天風呂をのぞき見することができる、ということだ。うっひょう。
とりあえずやる気の無い歓声を上げてみる。やらんやらん、そんなことをやっても得られるものと失うもののバランスが全然取れんわ。先ほどからドシドシ廊下を歩きながら風呂に向かっていく人たちの喋り声が聞こえているけど、あと半世紀早ければ・・・という人ばかりだったと思う。仮にこれが若い女性だったとしても、真っ暗な中、遠くで入浴している女性を僅かに見て何が楽しい?
こうやって理詰めで考えると、本当に空しいよな。パンチラだって、真面目に考えりゃ「だからなんなんだ」だし。で、そんな理詰めを超越するのが若さ故の「たぎる魂」なんだけど、それが今や枯渇してしまったらしい。くやしいのう、くやしいのう。
若さを保つためには健康一番、と先ほど売店で買ってきた牛乳を飲む。うわあじじくせえ。
というのも、嬉しくなってしまって牛乳系飲料を全種類買っちゃったから。3泊4日あることだし、なーに1日1本でちょうどいい。さすが岩手県だけあって、小岩井ブランドというのが旅情をそそるし。
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