潜入、湯治宿【大沢温泉】

17:58
売店と廊下を挟んだ反対側は、コンビニのような飲料冷蔵庫が壁になっていた。

湯治宿といえばじい様ばあ様がたくさん宿泊している、という先入観があるので、こういう売り場ではお茶ばっかり置いてあると思っていた。しかし、当たり前だけど実際にはジュースが置いてあるし、品数は多い。

とはいっても、レッドブルやライフガードが置いてあるようなことはなく、栄養ドリンクならばオロナミンCやリポビタンD、といった定番が中心のようだ。

お酒も売っている。ここで買ったものを食事処「やはぎ」に持ち込んでも良いのかどうかは不明。

さすが温泉地だなあ、と感心させられたのが、棚一列全部に牛乳が敷き詰められていたことだ。ノーマルの牛乳に加え、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳が売られていた。フルーツ牛乳！何年来飲んでいないだろう？こういうところでないと、なかなか飲めない飲み物だ。

それにしてもノーマル牛乳の在庫の多さたるや。生鮮品なので(ほぼ)毎日配達されているはずだ。なので、1日であらかたこの数を売り切ってしまうのだろう。スーパーの牛乳売り場じゃないぞ？宿だぞ？ここ。かなりの人気商品だという証拠だ。

｢銭湯に行ったら牛乳」というのは、よくあるシチュエーションだ。｢薄ら笑いを浮かべながら」という条件付きながらも、日本人の定番ムーブメントとなっている。しかし、温泉宿に泊まったときに「牛乳を飲もう！」と思ったことは僕はこれまでなかったと思う。なるほど、湯治宿に泊まるということは、瓶牛乳を飲むというお作法がカッコイイんだな。覚えておこう。

湯治宿の売店とはいえ、スーパーではない。生鮮食料品の扱いはさすがに少なかった。この品揃えを元に料理を作るとなると、作れるものは限られてくる。もっとも、肉や魚といったものは事前に予約をしておけば、取り寄せてもらえるらしい。

そんなわけで、「折角だから本格的なタイ料理を作ろうぜ！」とか野望を抱いてはいけない。おとなしくみそ汁とご飯を軸に、あと一品ないし二品、簡素な煮物でも作って食べていなさいという食生活になる。

どうしても凝ったものが作りたい、というならバスに乗っていけば、終着がイオンだ。そこで買い物をして、またバスに乗って戻ってくればいい。いろいろなものを好きなだけ買ってこられるだろう。また、花巻市街の食事処に行くのだっていい。

まあ、そういうのをせず、のんびり宿で一日を過ごす・・・というのが湯治の楽しみであり本分だろうから、あれこれ食事にこだわらないほうがよさそうだ。

売店内に入ってみる。

お土産物屋の風情で、実際にお土産物が売られているのだけど駄菓子も売られているのが面白い。そうか、宿で何日も滞在するのだから、「おやつ」という概念も必要なのだな。普通の一泊二日旅行なら、「3時のおやつ」を宿で食べる機会がなかなかない。

歯ブラシやシャンプーといった生活用品だけでなく、タッパウェア風容器、ティッシュ・・・と日用雑貨がたくさん売られている。これなら、とりあえず手ぶらでこの宿を訪れても自炊生活ができそうだ。

そういえば、下世話な話で恐縮だが、避妊具ってここで売られていたかどうか確認しそびれた。そういうものまで売られていたら、心底驚いたと思う。

調味料などが並ぶ棚。

ずらっと並んではいるが、同じ商品を何列も並べてみたり、サイズ違いのものを並べている。なので必ずしも「品数豊富」というわけではない。

湯治宿の売店によっては、醤油一つとっても「人それぞれに好みがあるから」と何種類も用意している場合がある。しかし大沢温泉の売店はそれほどバリエーションはない。

それにしても食塩の袋のデカいことよ。一体何に使うんだ？「湯治の場合、滞在期間が長いからたくさんの調味料を使うんだねえ」と言うにしてはいくらなんでも多すぎだ。魚を塩釜蒸しにして、トンカチで割って食べる用としか思えない。

驚いた。大沢温泉オリジナルのお菓子があるだけでなく、お酒まで造っていたのか。「山水閣」というラベルが貼られたお酒が二種類も売られていた。片方は大吟醸、もう片方は純米吟醸。

じゃああれか、「菊水館」は本醸造で、「自炊部」は三増酒とか。・・・いや、そもそもそういうラベルのお酒はなかった。「山水閣」だけだ。それだけ、大沢温泉にとって別格の宿泊棟だということなのだろう。二種類もお酒を作るなら、別の名前にすればいいのに。

自炊部泊のおかでん、悔しがる。どうせお酒は飲まないから関係ないのだけど。

以前、桧枝岐(福島県)で尾瀬の名を冠したワインを買ってみたら、産地が山梨県で仰天したことがあった。この山水閣も、実は灘とか伏見の酒だったりするかもしれん。念のため調べてみたら、ちゃんと岩手の名だたる醸造所「南部美人」が醸したものだった。