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「繊維機械館」に入る。最初の展示は、ガンジーが使っていたような糸車があったり、水車が展示されている。非常に牧歌的だ。ああまあ、こんな感じだよね、とこっちもナメた感じでざっくりとそれらを眺める。
が、そこから先がすごかった。
「でけえ!」
先ほど、MUSEUM CAFEに向かうまでの道が結構遠いな・・・とは感じていたのだが、その分展示会場そのものがかなりでかい。広い空間の奥のほうまで、ずーっと紡績がらみの機械が陳列されているのが見える。地平線が見えそうだ。
古いレンガ造りの工場跡を見せて、「ほら風情があるでしょう?」という形で終わりにしていない。本気で展示しにきてるぞ、これ。
僕の頭の中でベンチマークとなるのが、「倉敷アイビースクエア」(クラボウの工場跡地)なのだが、あそこは工場をホテルに改造してしまって、今となっては紡績の面影というのはほとんどない。チャペルがあったり、手作りろうそくのお店があったり、オルゴールのお店があったり。レンガの建物と、その壁を覆うツタの葉っぱがきれいな「観光地」に過ぎない。それとこれとを比較するのは、そもそも間違いっぽい。
珍しいものがいっぱいあるので、ついつい見入ってしまう。
ガタガタと派手な音を立てて、布を編む行程ばかりに意識がいきがちだが、この施設は「バカいっちゃいけない、そんなのは最後の最後だ」とばかりに前行程の部分にかなりのスペースを割いていている。なので、「なるほど、確かにこういうことをやらないと綿が糸にはならないよな」と感心させられまくる。
1850年ごろの世界的な繊維産業の様子。ザ・産業革命、といった感じ。4階建ての工場ができているぞ。やたらと細長いうなぎの寝床工場。
それにしても、こういうのがまだ170年前でしかないというのに驚く。
一方我らが日本の同時期はというと、なんだか安定感のある、ローテク技術をきわめております。男性はチョンマゲだし。
ながーい機械の中を綿が通っていくことで、繊維を叩き、ほぐし、引っ張っていく。
実際にこの行程で出来上がった綿を触ることができる。
糸をよる際に、綿の繊維が同じ方向に向いていないと強度が確保できないから・・・ということで繊維をそろえた状態。左がその行程前、右が行程後。なるほど、右のほうがしゅっと繊維がまっすぐだ。
「こういうことを延々とやってるのか!」
まだまだ、「機織り」の行程までは遠い。
ところどころに、技術者あがりと思われる職員さんが解説員として配備されていた。この人が嬉しそうに技術を語ってくれる。こちらもそれなりに「なるほどなるほど」と聞くものだから、職員さんはますます嬉しくなっちゃって、延々と話をしてくれた。ありがたい。
以前トヨタ博物館に行った際、車のエンブレムについて熱く語る「カー・ガイ」な職員さんに30分近くお話を伺ったことを思い出した。こっちの人も同じ雰囲気で、さしづめ「スピニング・ガイ」だ。
このほか、拡声器を持った職員さんの後ろについていって説明を聞く、ガイドツアーも定期的に行われているようだった。単に展示しておしまい、という形でなく、伝えたい!という意欲がよく表れていて気持ちが良い空間だった。
特にこの空間には順路が設定されておらず、好き勝手に見て回ることになる。なので、必ずしも時系列順に機器を見ていくわけではない。一気に糸巻きがたくさん並ぶ、近代的な設備のところまできてしまった。
写真では割愛したが、途中、「鶴の恩返し」的なぱったんぱったん音を鳴らす機織り機から始まって、どんどん技術革新が進んでいく様を知ることができた。最初は「ぱったんぱったん」だったのに、あっという間に「ガガガガガ」という音を出すようになり、そしてもう今の人間が見ても意味不明なほどの処理能力へと進化していく。ITの世界ではCPUの集積密度は18-24ヶ月で2倍になる、という「ムーアの法則」が有名だが、当時の紡績機械もそんな勢いだったんじゃなかろうか。正直、ぞっとするくらいの進化だ。悪魔に魂でも売ったのか?と思えるくらい、急激にメカが発展していく。
「こうやって、機械が仕事を人の手から奪っていったんだな」
蛋白質がしみじみと語る。
「いやでも、こういう機械に糸をセットしたり、出来上がったものを倉庫に運んだりするのは最終的に人がやることだから」
と蛋白質に声をかける。
しかし、技術進化という魔物は、「人の手がかかるところ」を極力排除したいようだ。
ドラム缶のような入れ物に、綿糸を自動的に格納する仕組みとか・・・
糸のスピンドルを自動で運搬してセットする機械とか、いろいろ。
こういう、技術の現在・過去を同時に見ることができるというのは貴重で、とてもおもしろい。「往時をしのぶ」という形のほうが、レトロ感というかノスタルジーな雰囲気が出て「展示物」としてはウケがいいものが作れるだろう。しかし、現在でもゴリゴリの生産ラインとして稼動していますよ、という話のほうが「単なる歴史」で終わらせない、現代に続くリアルさがあっていい。
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