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ジャガード機構、という昭和初期の機械の紹介があった。
「ジャガーの過去形?」
「なんだそれは」
「俊足のジャガーが草原を駆け抜けたら、ドップラー効果が起きる、みたいな」
ジャガーはパトカーや救急車じゃないんだから、ドップラー効果なんて起きるわけがない。
そんな騒々しい肉食動物なんているものか。
冗談はさておき、小さな穴がたくさん開いたカードを読み込むことで、生地の模様の織り方をプログラミングできる仕組みらしい。昔のコンピュータのパンチカードと一緒だ!
一緒もなにも、もともとパンチカードはコンピュータが先なのではなく、紡績のほうが先らしい。
おーおーおー、まるで暗号通信のように穴が開いた木の板が繋がっている。すのこのようだ。この穴の位置で、織機の動きがコントロールできるというのだから不思議だ。「ゼロか、イチか」のデジタルの世界なのに、それを読み取っているのは木製の織機なのだから。
こういうのを見るにつけ、人間の脳みそってのも規模は違うにしろいずれデジタルで表現できるようになるんだろうな、と思う。生命だからといって特別な存在ではない、という気になる。
しっかし、このジャガードはものすごい量だ。これで一体どれくらいの複雑な模様になるのかわからないけど、まさか二次元バーコードの模様を織るわけでもあるまいし、できることは知れているのだろう。それでもこれだけの物量作戦に挑まないといけないのが、ジャガードの限界ということか。
そんな「デジタルとアナログの狭間」を見ていた我々だったが、蛋白質が「うわァ」と驚く一角があった。
「電子ジャガード装置」。もうこうなると、板切れのジャガードは存在せず、フルデジタルになっている。織機のデカさもさることながら、今まさに駆動している騒音は相当なものだ。親の仇、といわんばかりに猛烈にガチャガチャ織っている。
「ああー、これはいけません、こうなるともう異次元の世界ですわ」
装置の反対側に回り込んで、思わず声を上げてしまった。
そこには、1枚の布にたくさんの写真クオリティの絵が織られていた。なんてこった、インクジェットプリントならまだしも、縦糸と横糸の組み合わせだけでこんなすごいのを織ってるぞ!?
糸車から出発した我々の紡績の勉強は、ついに最後には「宇宙人のしわざ」というレベルにまで達してしまった。正直言って、薄気味悪いレベルだ。
「人間の業だな、ここまでやらないと気がすまないなんて」
しみじみと語る。そして、頭をよぎったのが、「牙が伸びすぎて食事がとれなくなり絶滅した、サーベル虎」だった。このまま人類って進化しすぎたら、風船が弾けるようにどこかでおかしくならないだろうか?
電子ジャガード装置の横にはパソコンのディスプレイが設置されており、そこに表示された絵をどんどん織っているようだった。もうこうなると、苦笑するしかない。
この施設、単に産業の発展を学ぶことができるだけでなく、人類がこの世に生きるということ」をあらためて考えさせられる作りだった。それくらい、奥が深い。
「ああそうだ、どこかでこういうのを知ってると思ったら、バビロンの塔だ」
いずれにせよ、バッドエンディングしか思いつかない。いかんな、歳を取ったからか、こういうのを見てシンプルにワクワクできない。子供だったら、目をキラキラさせて楽しんだのだろうけど。
すごいヤツといえばこちらもそう。
DENSOのロゴが入ったロボットアームなのだが、左右にギュインギュインと動いたのち、突っ立っているシャーペンに芯をすっとはめる動作をする。つまり、1ミリ単位まできっちりと狙いを定めて、絶妙な力加減で繊細なものをコントロールできるんだぜ、というデモンストレーションだ。
うわー、これももはや「怖い」レベルだ。シャーペンの先に芯を刺すだなんて、人間様がやったってうまくいかないのに。
でも、この技術がさらに発展していけば、「耳かきロボ。かゆいところをピンポイントでかいてくれる」なんてのは余裕だろうな。脳神経と何らかの形で直結して、かゆいところを自動検知して、絶妙な力加減でクイクイかく。たまらんな。
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