12:02
繊維機械館を見終わって、ひとまずほっとする。見ごたえがあるのだけど、その分かなり時間がかかったからだ。途中、一息つけるベンチがあってもよいぐらいだ。
詳細を覚えていないのでずばっと割愛したけど、ずっとちぇるのぶの解説を聞きながらの見学だった。いろいろな話が聞けて面白かった。
「まだこれで半分だぞ、ここから先自動車館があるからな」
「うへぇ」
もう既に正午。このペースで見続けたら、一日が終わってしまうんじゃないか。足も随分疲れてきた。何しろ今日は朝5時に自宅を出ているんだ、疲労感は隠しがたい。
「ちょっとペースを上げていかないとな」といいつつ、自動車館の手前にある「金属加工コーナー」という部屋に入る。
そこは、鋼鉄をプレスする実演をやっていた。客席が並び、まるでアシカのショーを見るかのようにみんなベンチに座って観覧する。
職員さんはステージ中央にあるプレス機を操作して、ガションと金具を一つプレスして作ってくれた。「おー」一同、判を押したように声を出す。いちいちこんなことで声を出していたんじゃ、金具を大量生産している工場を見学した暁には「おおおおおおおおおお」と唸り続けないといけない。感嘆の声をあげた後に、われながらオーバーアクションだったと照れた。
先ほどまでの繊維が軽やかなアコースティックギターの世界だったのに、こっちは完全にヘビーメタルだ。悪魔の所作だ。人類は一体どこにたどり着こうとしているのか。
その答えは、自動車館にあるのかもしれない。そこでようやくこの施設の後半戦、自動車館に入る。
「自動車というのは、ゴム、電装品、ガラス、家具、家電、金属、あらゆる産業が詰まったものだからね」
とか適当に知った顔をせいぜい今のうちにしておく。
12:18
さっきまでが紡績の豊田、ということで豊田佐吉の発明した織機を中心とした紹介だった。しかしこの自動車館は豊田第二章、ということで豊田佐吉の息子、喜一郎の立志伝的な紹介のされ方になっていた。
まずお出迎えしたのが、人形。「どうやったらこのチャリ、パクれるかな」と友達と悪巧みをしている構図だ。・・・あ、違うのか。
「やっべー、タイヤ交換しようとおもったけど、サイズが全然違ったわ。俺が持ってきたの、子供用のタイヤだったわ」の図か?
それも違う。これは、自転車にガソリンエンジンを搭載して、バイクのようなものを作ろうとしていた図。自転車自体を作り変えるのではなく、後輪にサイドカーのような補助輪を付け、その補助輪にエンジンがつけられている。今となっては、一回りしてなんだかハイテクに見える。
しかしこれ、操作が難しかったはずだ。うっかりしたら、円を描いて同じところをグルグル廻ってしまいそうだし、エンジンの出力を調整するアクセルの機能をどうやって実装したのやら。
いろいろ展示物があるのだけど、このあたりは淡白に見ていく。一つ一つ、絵画鑑賞のようにじっくりと見ていたらきりがない。
12:23
ちぇるのぶが一枚の漫画絵の前で立ち止まった。
「そうそう、これこれ。是非おかでんセンセイと蛋白質センセイには買っていただきたいんだよなあ」
「なんだこの漫画?」
どうやら、豊田喜一郎の伝記漫画らしい。自動車開発に苦労する様が描かれている。しかし、どう見ても絵がはだしのゲンを連想させる。
「これ、はだしのゲンの作者が書いたんか?」
「いや、別人だけど似てるよな。面白いから、ぜひ。この後の売店で売っているから」
「いやぁ・・・さすがにこれは・・・」
面白そうではあるが、わざわざ買うという気にはならなかった。
ちなみに、この手の「我が社の創業者がいかにすごかったか伝」は面白いというのが我々の認識だ。以前、アワレみ隊は穴吹工務店が運営する宿泊施設を二度ほど使ったことがあるが、その客室にもれなく置いてある「穴吹夏次物語 日々是前進」という自伝漫画には大いに楽しませてもらった。「鯉の品評会に勝つために、寒い日には庭の鯉を救い上げて抱きしめて暖めた」などと珍妙なエピソードにページが割かれてる。独特すぎる。他にも、ボウリング大会で勝つ話とか、本業とは関係がない上に他人からしたら「だからなんなんだ」というエピソードが混じっていて面白い。
ちぇるのぶはそういう「みうらじゅん的B級エッセンス」も含めてこの本を推奨しているのだろう。
「見ろ、ドバーッだぞ、ドバーッ」
「ああ、ドバーッだな」
「買うか?」
「いや、買わない」
「ええ!なんで!」
単なるパネル展示や機器の展示だけでは飽きるだろう、ということで「往時を再現した人形」などをあちこちに配置し、工夫がされている。でも、広告代理店やクリエイティブディレクターに縦横無尽に喰い散らかされた感はさほどなく、露悪な感じが少ないのでいい。
展示を見るおかでん、ちぇるのぶ、蛋白質。
豊田喜一郎が遺した言葉が垂れ幕で掲げられている。
「人を見たら泥棒と思え」
「いや、そんなことは書いていないぞ」
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