お座敷だし個室だし、まだ日が暮れてないし!折角の名古屋だし!じゃあ飲むかァァァァァ!とはさすがにならなかった。そろそろこのあたりで本題である「ひつまぶし」を頼まないと。ひつまぶしに辿り着けないんだったら、どっか駅前の養老乃瀧でも笑笑でも使って飲んでればいいんだ。
ここは是非、ぐっと「もっと飲みたい!もっと居座りたい!」という欲求を抑えつつ、ひつまぶしを注文せねば。もちろん、店員さんにがっついているところを見せてはいけない。バリトンボイスで、なおかつ、「日常生活の延長なんだけどね」感を出しつつのオーダーでなくては、ならない。
そもそも、名古屋行きを言い出したまゆみさんは大の酒好きであり、みんなで名古屋で宴会!となるとそりゃもう当然酒ありきだった。なので、当初「夕食にあたる時間帯に立ち寄るお店がひつまぶし屋(すなわち、ご飯ものの店)」という提案を聞いた際、「えー」と抵抗していた。
「ほら、あたしらさ、お酒飲むじゃん?お酒飲むんだったら、やっぱりそれなりのものと一緒に食べたいわけよ。手羽先とか」
まゆみさんの頭の中では、既に「名古屋の夜は、スパイシーな手羽先を肴にビールで乾杯!」という構図ができあがっていた。しかし、僕はそれに対してものすごく及び腰だった。というのも、名古屋の手羽先を全国区にさせた「世界の山ちゃん」は東京都内に何店舗もあるし、名古屋風の手羽先の元祖と言われる「風来坊」だって東京にお店がある。手羽先でビールを飲むなら、これだけのタイトスケジュールの名古屋ツアー中でなくても構わないわけだ。
まゆみさんはこう言う。
「でもさぁ、現地で食べる地元の料理って最っ高ーにうまいよね!?手羽先も、やっぱり名古屋で食べたいじゃん」
いちいちごもっともだ。僕ももし未だにお酒を飲んでいたら、「ひつまぶし屋で宴会なんてできるかぁぁぁぁ」と企画そのものをひっくり返していたと思う。
いやちょっと待って欲しい。企画を詰めていく中で、しぶちょおが「風来坊なら名駅でもテイクアウトできるぞ。それを持って新幹線に乗って、帰りの電車の中で宴会すればいいだろ」というネタを提供してくれた。その話をしたら、さすがのまゆみさんも「なるほどじゃあそれならば」と納得してくれた。熱田神宮までやってきて、蓬莱軒を無視するのはあまりにもったいないだろう、というわけだ。
とはいっても、今夜この後名古屋で一泊!というこの日この時間において、豪快に酒が飲める場があるというのは重要なことだ。ご安心ください、この後もう一店舗行きますんで、あらためてそこでガッツリ飲んで気持ちよくなってもらうとして、ここではひつまぶしを「前菜程度」でお楽しみ頂ければと。
ひつまぶしを今更説明するまでもないとは思うが、知らない人がいたときのために念のため。
基本は、鰻丼と一緒の食べ物だ。ご飯の上に、細かく刻んだ鰻の蒲焼きが載っている。おひつのような器にそれが入っているので、まずはその「おひつに入った鰻丼」をしゃもじで四等分の切れ目を入れておくことから始まる。ピザに切れ目を入れるようなものだ。
で、自分のお茶碗に、まずはそのおひつの1/4鰻重を入れる。そしてそのまま食す。まさにこれぞ、シンプルイズベストな食べ方。
次に、さらなる1/4をお茶碗によそい、今度はわさびや海苔、葱といった薬味類を載せていただく。一膳目とは違う、和のスパイシーさが加わり、これもまた良し。
そして、次の1/4は二膳目同様に薬味を載せた上で、お茶漬けにして食べる。
さあ、あなたはどれがお好み?最後残った1/4は、これまでの3膳の総決算。一番自分の好みにあった食べ方をすればいい。
そんな味の変化を楽しむのが、ひつまぶしの楽しさだ。
薬味が届けられた。海苔、わさび、葱。お好みでどうぞ。
この後お酒をがっつり飲みたい人もいるだろうし、ここは「ひつまぶしを食べました。しかも、あの蓬莱軒で!」という実績と思い出作りさえできれば良いのだとばかり僕は思っていた。なので、6名いても、せいぜい2つ頼む程度だろうと。
しかしどうしたことか、店員さんに通った注文はノーマルひつまぶしの1.5倍サイズである「一半ひつまぶし」(5,100円)を3つ、というものだった。つまり、6人で4.5人前のひつまぶしを喰うぜ、という宣言だ。おいちょっと待て、そんな余裕がどこにあるんだ。ご飯ものだぞ?いくら鰻が美味いといっても、ご飯と一緒じゃ酒の肴にゃ難しいぞ?
よくもまあ健啖家が揃ったものよ、と感心する。なにせ僕がこの中では最年少だ。上は50歳近い人までいる。それがいけしゃあしゃあと「ひつまぶしは別腹」とばかりにハッスルしているんだから、豪快だ。・・・あ、そうか、この人(おやびん)は大須で食べ歩きをしていないんだった。道理で元気なわけだ。そのペースにまんまと他の人たちも乗せられた感あり。
それにしても一半ひつまぶしの大きなことよ。ノーマルひつまぶし(3,600円)より一回りお値段高いとはいえ、豪快としかいいようがない。おやびんがはしゃぐのも当然だ。
で、おひつをあけるとこれだもの。みっちりとご飯、そしてみっちりと鰻。壺漬けカルビが入っている壺じゃねぇんだぞ、マッコリが入ってる器でもないんだぞ、と言いたくなるようなでかいおひつに、これでもかと詰め込まれた「地味な色をした玉手箱」。
一同思わず、息をのみ、そして唾液も飲み込んだ。
で、その一半ひつまぶしを、二人で1おひつの割合で食べていった。いくらおひつが大きいといっても、ひつまぶしという食べ物自体が「4回に分けて食べるという手法」のものだ。それを二人でシェアするとなると、このおひつの中身を8等分しなければいけなくなるわけで、さあどうするどうする。ピザのように放射線状に切れ目を入れようとしたが、さすがにそれは間抜けすぎで却下だ。
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