
入場してすぐのところに、金のしゃちほこが飾ってあった。紅白幕に取り囲まれ、お祭りのようでおめでたい。とりあえず記念撮影、しとくか。
三脚をセットして、セルフタイマーで撮影をする。
「5秒前、4、3、2、1・・・シャチホコ~」
「ちょっと待って、今どんな顔をすればいいのかよくわからなかった!チーズ、とかそんなかけ声じゃないの?」
「いや、折角のシャチホコの前だから、カウントダウンのゼロのところは『シャチホコ~』にしてみた。意味は特にない」
「もう一回やり直し!今のじゃダメだよ、それならそうと言ってくれないと」
というわけで、撮影しなおしたのがこの写真。なんだかご機嫌そうな人と、イマイチ乗り切れていない顔の人が混ざっているのはこういうやりとりが直前にあったからだ。
「それにしても、シャチホコって・・・ウロコあるんだね、近くで見ると」
「え?魚でしょ?」
「シャチじゃないの?」
「あれ?」
天守閣の上に乗っかっている金色のヤツ、という印象しかなかった。そういえばこれ、なんだ?少なくとも、水族館にいるシャチとは違う生き物だ。
後になって知ったが、シャチホコの元となっている「鯱(しゃち)」という生き物は、いわゆる水族館のシャチとは別もので、空想上の生き物らしい。頭は虎で身体は魚なんだという。なるほど、言われてみれば顔つきは獅子舞のようにいかめしい。見た目通り強く、時には鋭いヒレでクジラをも引き裂いて食べてしまうし、ひとたび泳げば大波を起こして雨をもたらす、という。そんな生き物なので、権力の象徴である天守閣の上に飾るには縁起物としてちょうど良かったのだろう。
しかし、シャチという言葉が一人歩きしてしまい、いつのまにか名古屋のJリーグサッカーチーム「名古屋グランパスエイト」のマスコットキャラクター(グランパスくん)は水族館にいるシャチがモチーフになっていたりする。

「名古屋グランパスエイトのエイトってなんだ?サッカーだから、イレブンじゃないのか?」なんて余計な事が気になりだす。そういえば、名古屋市営地下鉄のマスコットキャラクターは「ハッチー」だったな・・・
とか考えているそばから、うわあ、なんかいかにも!なゆるキャラがいるぞ!たすきを右肩に賭けていて名前を自ら名乗っているのだが、「はち丸」・・・またかよ、ここでも「八」が出てきたぞ。本当に八が好きだな。

おやびんが特に大喜びしちゃって、はち丸に抱きつかんばかりの様子。なんで女性ってこういうキャラクターものが大好きなんだろうね。いや、全ての女性が、というほどでもないか。まゆみさんなんかは比較的冷静だ。
しかし、こういう「大喜び」ってのは自然と伝染していくものだ。「お、なんかゆるキャラがいるぞ」程度にしか思っていなかった僕でさえ、はち丸がイイカンジに見えてきはじめた。おやびんがキャッキャと喜んでいるからだ。じゃあ、ということではち丸と記念撮影。
でも、僕なんかはファンタジーの世界にどっぷりはまれないタイプなので、はち丸に
「この暑いのに大変ですねぇ?中は随分暑いんじゃないですか?」
なんて身もふたもないことを聞いてしまった。はち丸は表情一つ変えず、「暑いです」とばかりに手をパタパタと振っていた。
ちなみに名古屋の市章にもなっていて、頻繁に登場する「八」という数字だが、これは尾張徳川家の略称にあたるものだったらしい。もちろん徳川家なので、正式には毎度おなじみ「葵の御紋」なわけだけど、面倒なときには略して「マル書いてその中に漢字の八を書く」やり方をしていたらしい。その名残で、しつこいくらい「グランパスエイト」とか「ハッチー」とか「はち丸」とか出てくるわけだ。

名古屋城大天守閣が見えてきた。かなり大きな天守閣と、石垣。もちろんてっぺんには金のシャチホコが輝く。


天守閣を近くで観察すると、かなり目立つ形で雨どいが露出している。他の城では見かけないので、名古屋城独特の作りだ。そりゃ、雨が降った時に樋があった方がいいに決まっている。しかしそれを他の城がやらなかったのは、一つは忍び込まれる足場にされてしまうからだろう。
ちょっとしたクライマーなら、こんな雨どいがあればするすると屋根まで登れてしまうだろう。闇夜に乗じた忍者ならなおさらだ。
戦後この天守閣を建て直した時にこしらえた、利便性重視のセンス無い造形物じゃないか?とみんなで話をしたが、実は名古屋城が出来た当初(1600年代初頭)からこの雨どいはあったらしい。名古屋城だけが特殊だった、ということだ。

名古屋城天守閣は第二次大戦の空襲で焼けてしまい、戦後鉄筋コンクリートで作り直したものだ。まあ・・・名古屋も他の地方都市同様、当然空襲を受けているよな。だからこそ、あんな整然とした町の区画と広い道路の町になっているわけだから。そのかわり、お城まで焼失してしまった。
幸い、焼失前に詳細な測量が行われており、何なら今からでも往年の天守閣をそのまま復活させることが可能らしい。河村たかし名古屋市長は観光の目玉になるとやる気十分だが、耐震補強でしのぐのに比べて10倍以上のお金がかかり、その額400億円と試算されているために「じゃあお金どうすんのよ」問題がくすぶっている。文化庁は、「建て直すなら当時のままの作りで(=木造建築)」と注文をつけてきており、さすが特別史跡、自治体が好き勝手できないことが窺える。
お城が大きくて立派なのは良いのだけど、身体が不自由な人用にエレベーターを外付けにしているのはどうなんだろうか。見栄えは相当悪い。バリアフリー、というのは大事なことだけど、天守閣までやる必要ってあるのだろうか?これは思案のしどころだ。

天守閣の断面図では、外付けのエレベーターは「なかったこと」にされている。
ちなみに、外付けエレベーターは車いすの人など明らかに身体が不自由な人のみが利用できる。僕らが「疲れたので乗りたい」というのはダメ。
とはいっても、大天守閣の中にはエレベーターが完備されている。最初にてっぺんまでエレベーターで上がり、そこから階段を使ってじょじょに下っていくという原則一方通行になる。

さあ、大天守閣に入ってみよう。
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