
敷地内にクラフトセンターという場所があるので、有料ではあるけど入ってみることにした。

この建物は4階建てで、1階・2階は実際に職人さんが器を制作しているところを見学することができる。見学レーンの両側にぽつぽつと職人さんが「我が城」をこしらえていて、それぞれが成形していたり、絵付けを行っていたり作業に没頭していた。日曜出勤ご苦労様です。お陰でええもん見させてもらいました。
仙人みたいな職人さんが、作務衣でも着て小難しい顔をして制作している・・・という印象があったけど、さすがにそんなことないな。特にノリタケの場合、洋風の皿なわけだし。自分のうかつな先入観に苦笑。実際は若い女性の職人さんなんかも作業をしていた。

さて、3階4階は「ノリタケミュージアム」。先ほど見た、企画展などに使えるギャラリーとは違い、こちらは陶磁器の常設展示を行う美術館になっている。
中はとにかく豪華で、きらびやかで、その場にいた6名全員がただひたすら嘆息しっぱなしの時間だった。写真撮影はもちろん禁止なので、紹介できないのが残念だけど。
「こんなすごい緻密な絵、わざわざお皿にする意味ある!?」
「いやぁ・・・このお皿に何を入れればいいんだろう?カレー?」
「こんなん、1セット揃えてテーブルに並べたら、それだけで食卓が溢れるけどどうするんだ?」
とにかく、「小金持ち」程度ではここに展示されている食器ほぼ全てが実用的ではない。僕ごときが想像する「カネ持ちの生活」の範疇ではない。親子三代くらいの金持ち一族でもなければ、こんな食器は似合わないだろうし、使いこなせる家も、食卓もないと思う。
「はあー。このコーヒーカップの緻密なことよ・・・。多分一回使って、洗って、片付けるだけで取っ手を折ってしまいそうだ」
うっかりスポンジのチリチリした方で洗っちゃって、表面に傷をつけてしまうとか、食洗機で洗ってしまってギャーとか、いろいろ悪い展開しか頭に浮かばない。これで「優雅なひとときを過ごす」という発想には僕は至らなかった。やっぱり、こうやってガラス越しに眺めるのが一番安心できる。

すごいエエモン見させてモロターと言いながら、ミュージアムを後にする。
最後に立ち寄ったのは、これまでとはうって変わって「物欲のエリア」。建物内に4つのノリタケのお店と、1つのカフェがある。

4つのノリタケ店舗が同一建物同一フロアにあるというのは不思議だ。何が違うというのだろうか。「コーヒーカップ専門店」「こっちは平皿専門店」とかあるのだろうか?
日常使いの食器を中心としたセレクト。「ライフスタイルショップ パレット」
日常使いからプロ仕様までの食器を扱う店「トータルコーディネートショップ マイダイニング」
高級食器を扱う店「ノリタケプレステージショップ ステージ」
お買い得商品を集めた店「アウトレットショップ ボックス」
という違いだった。ボックス<パレット<マイダイニング<ステージと、きっちりと値段が違う、というかお買い求め遊ばす階層が違う。「ステージ」なんて、先ほどの美術館にあるようなものとまではいかないものの、アートの領域に足を突っ込んだ食器がずらり。
「折角だから、コーヒーカップを買ってもいいかな」と思っていた僕は思案しっぱなし。大至急必要なわけではなく、今既に家にはマグカップがある。でも、最近コーヒーに凝っており、もう少しいいカップがあってもいいかな、と思ってはいた。さすがに100円ショップで買った厚ぼったいマグカップで、一杯100円近くするような豆で煎れたコーヒーを飲むというのはバランスが悪すぎる。
しかし、上を見ればきりがない世界。たかがコーヒーカップ、されどコーヒーカップ。当たり前だが、ちょっと高級品になったらすぐに縁のところが金になっていたりする。いやいや、そういうのはいらないんだ、もっとざっくばらんなのがいい。飽きが来ないけど、でも地味すぎないそんなバランスがいい。

そもそも、コーヒーカップを買うとしていくつ買うの?というのも悩ましい話だ。一人暮らしなんだし、1つでいい・・・と思うが、彼女が遊びに来たときのためにもう一つ・・・来客が来た時のためにさらにもう二つ・・・とか考え出したら、もうわけがからぬ。でも、そもそも「来客」って一体年に何回来て、そのうち何回コーヒーなんて飲むんだ?「遊びに来た彼女にコーヒーを振る舞う」とか、おかでんお前いいご身分になったもんだなオイ。もう少し現実路線を考えた方が良さそうな気がする。
で、結局、アウトレットショップでソーサー付きのマグカップを2客購入した。いいぞアウトレットショップ。「普段使い用」と銘打たれているお店の商品でさえ、ビビってしまう財布事情の僕にとって、アウトレットショップは良い落としどころだった。これがなかったら、ただただ唖然として手ぶらでお店を後にするしかなかった。

で、購入したコーヒーカップ。どこがどういう理由でアウトレット行きになったのか、外観ではよくわからない。他の店で同じ商品は見かけなかったので、型落ちしたのだろうか?それとも、よーく見るとわかる、何らかの傷があるのだろうか?メイドインスリランカ。
これで一客、1,600円くらいだったと思う。これが高いのか安いのかよくわからないが、「コーヒーを飲む」という目的遂行なだけだと100円ショップのマグカップで事足りるので、それを思うと高いんだと思う。とはいえ、ノリタケ製であることを思えば、すごく安いんだと思う。他のノリタケ製コーヒーカップは、この倍以上しても全然おかしくないからだ。
後日コーヒーをこのカップに入れて飲んでみたが、100円マグカップと全然味が違って感じられて、笑ってしまった。口に触れる部分がこのノリタケ製の方が薄いので、コーヒーを口に含んだ時の感じ方が全然違う。もちろん、ノリタケ製の方が遙かに美味しい。そうかー、よい豆を使っていても、器が手抜きだと味が本領発揮されないのか。
まあ、飲み口が薄い陶器のカップ、くらいなら100円ショップでは無理だとしても数百円出せば買えるかもしれない。でも、僕が「さすがノリタケ!」とびっくりしたことがある。それは、お米を炊くための土鍋の上にうっかりこのコーヒーカップを落っことしてしまったことがあるのだが、コーヒーカップが割れるのではなく、土鍋の方が割れてしまったことだ。こんなことってあるのか!
「最強の食器は『ヤマザキ春のパン祭り』で貰える白いお皿」だと思っていたし、実際家には数十年前に貰ったと思われるお皿がまだ沢山ある。でも、ひょっとしたらノリタケの器がそれを上回るのかもしれない。

めいめいが戦利品を自慢しながら、テラスでお茶をいただく。やあ、随分疲れてきたぞ。
相変わらず外は暑い。カフェでは、「温かい飲み物を頼むなら、ノリタケのカップで提供する」という話で、大いに惹かれた。しかし、こうも暑かっちゃぁ、冷たいヤツしか飲む気になれなかった。僕だけでなく、全員がそんなわけで冷たい飲み物だった。

「でもせっかくだから、お皿使いたいでしょ?」
と言いながら、おやびんはケーキを皿に載せ戻ってきた。すげえ、この期に及んでデザート食べますか。
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