
12:20
ラーメンを山で食べる場合、大量の水を必要とする。
トレーニングの一環だ、と腹をくくって水を背負っていくしかない。でも、トレーニングって本番に向けて行うものだ。本番そのものにさらにトレーニングやってどうするの、という気はする。
そんなわけで、ラーメンを食べたら一気に軽量化が図れる。これは相当にうれしいことだ。
今晩の宿である農鳥小屋まであと1時間程度。ここからの道は基本的に下り坂だし、せっかくだからこの際水をふんだんに使ってしまいたいところだ。
しかし、農鳥小屋の水事情はあまりよくない。
登山地図によると、小屋から水場まで往復30分、という記述があった。
往復30分!
山においてそれくらいの時間はたいしたことはない。でも、山小屋に着いて、「ひゃー、着いた着いたァ」と一息ついたら、もうあまり動きたくないものだ。そんな中、さあ水をくみに30分往復しましょう、といわれたら、相当になえる。
そもそも、水なんてのは公園の噴水じゃないんだから、便利の良いところに湧いてはいない。大抵、急な坂を下った先にあるものだ。
そんな道、通りたくないなあ・・・。
そんなわけで、水を節約することにした。水場に行くのが面倒なので、明日の分まで今ある水でまかなっちゃおう、というわけだ。
どうせ明日も下り坂。息が上がって喉がカラカラになる、ということはあまりないだろう。
こういうとき、2リットルのペットボトルに水を詰めていると楽だ。普段は大きすぎて、重くてでくの坊なわけだが、こういう時に楽できる。

12:24
カップラーメンができた。
箸・・・はないので、スプーンでいただきます。
せめてスプーンはおそろいのものが用意できればよかったのだけど、見ての通りちぐはぐだ。
外見だけならまだしも、いざ使ってみると硬さも当然違い、使いにくいったらありゃしない。
標高が高いので、気圧が低い。だから、お湯の沸点は当然低くなる。しかし、そんな低い湯温であっても一応問題なくカップラーメンはできた。もともと、3分待ちきれずにふたをあけて食べちゃう性格なので、少々芯が残るラーメンは余裕。

12:25
山頂の脇で食事をする。
このあたりはとても広いので、遠足でもピクニックでも何でもやりたい放題だ。ただしここに来るまでほとんどの園児なり児童なりはギブアップすることになるが。
ラーメンを山で食べるということは過去何度もやってきたが、大抵お湯が沸くまでの間にビールを飲んでいたはずだ。
ビールの肴として、シメとして、ラーメンは心強かった。
しかし今はビールはない。ビールを手にはしゃぐおかでんもいない。全て過去のものになってしまった。
変わってしまったものだな、と思わずつぶやく。
でも、案外こういう山登りも悪くはない。シラフでラーメンをすするのは、まだちょっと違和感を感じるけど。
ガソリンがなくても車は走る・・・このとき、思った言葉。
ガソリンとは、ビールのこと。そして車はおかでん本人。
これまでは、生きた証としてビールを飲んでるんだか、ビールを飲むために生きているんだか曖昧な状態だったけど、いまやビール無しの人生にスイッチした。それはとても空虚なものだと思っていたのだが、案外そうではないものだ。
むしろ、アルコールによってゆがんでしまっていた認知が是正された気がする。「山に登るからには、ビールがないと無理」とまで思っていた自分が、那須岳、赤岳、そして今回の山行で変わっていっているのがわかる。
それは新しい体験であり、大人になって初めての、未知との遭遇。あらためてワクワクさせられる経験だ。
・・・それにしても食べにくいな、おい。
紙製のスプーンは、ヨーグルトやプリン程度なら問題ない強度なのだろう。でも、麺を引っ張りあげるには力不足だった。途中で諦めて、プラスチックのスプーン一つで食べることにした。
なんだ、それだったら昨日、広河原山荘で食べてもよかったんじゃないか。
シラフの頭ではあるけど、思わず「ふふふ」と笑ってしまった。
箸一本で食べる経験なんて、大内宿で食べた時以来だ。

12:38
さて。
食後しばらくして、人が山頂から少なくなったタイミングを見計らってあらためて記念撮影をした。
やっぱり人前で三脚を広げ、セルフタイマーで一人写真撮影・・・ってのはあんまり見栄えがよいものではない。「セルフタイマーの鬼」と化しているおかでんでさえ、若干の気恥ずかしさはいまだに感じている。
じゃあ道行く人に撮影してもらえばいいじゃないか、といわれそうだが、人に撮ってもらった写真は結構気に入らないものが多く、あまり頼みたくない。世の中には、写真が下手くそな人がとても多い。
だから、構図をちゃんと事前に自分で決められる三脚撮影+セルフタイマーってのは結構気に入っている。

12:41
十分休みをとったところで、出発。
相変わらずガスが多いけど、時々すーっと視界が開けたり、また閉ざされたりを繰り返している。全体的には良い方向に向かっているっぽい。
農鳥小屋まであと1時間なら、余裕の部類で到着できるだろう。いきなり雨が降ったって、たぶん大丈夫。
道に迷いそうになる広い岩場を、慎重に歩き始める。黄色いペンキが岩のところどころに塗ってあるので、それが登山道の目印。見失わないようにしないと。
1、2分ほど歩いたところで山頂を振り向いた写真がこれ。
岩場なんだけど、やさしい斜面の山頂だということがあらためてわかる。
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