ガソリンはなくても車は走る【白嶺三山縦走】

スマホを充電

18:03
外は随分暗くなってきたし、寒いし、小雨がぱらつきだしたので室内にいるしかない。

談話室なんて気の利いた物はこの小屋には存在しない。つまり、居場所は寝床しかない。

おとなしくみんな、寝床で横になる。

そういえばこの小屋って消灯時間について説明がなかったな、と気がついた。しかし、そんなものは聞く必要がなかった、ということを日没とともに思い知らされた。

明かりがつかない。

以上おしまい。

いちおうランタンがぶら下がってはいるけど、これは非常用なのか点灯することはなかった。

各自が持参したヘッドライトなどで手元を照らすしかない。山小屋側で用意する「オフィシャル照明」は存在しない。だから、消灯時間なんていう概念はないのだった。

おかでんが山小屋に泊まるときは、「夜中に目が覚めてしまって『これ以上眠れない』ってなるのは拷問」と考えている。だから、消灯時間近くまで「夜更かし」するのが常だ。でも今回初めて「消灯時間が存在しない山小屋」に泊まったわけで、ちょっと困惑してしまった。

既に寝る体制に入っている人もいる。でもまだ18時だぞ?ちょっとこの時間からは寝たくない。

とりあえず、スマホを充電する。充電池を持参しておいてよかった。前々回、那須岳のときに買ったのが今役立っている。

天井

18:05
ほら、いちおうランタンはあるんだけど・・・。

天井を見ていると、ところどころ屋根を突き破られたような跡があった。聞くところによると、冬季登山をする人が、この小屋の上を通過した際にアイゼンで踏み抜いてしまったものらしい。

「えっ?こんな小屋の屋根の上まで雪が積もるの?」

とびっくりしたが、実際そうらしい。積雪量、数メートルってことだ。

ぼそぼそと起きている人同士で話をする。同じ釜のメシを食った仲間、っていう感じがする。

ある人は、3,000メートル峰を全部登頂する旅をしていて、明日登る西農鳥岳と農鳥岳でそれが完全制覇になるのだという。その話を聞いて、小屋にいた全員が拍手を送った。

またある仲良しマダムペアは、明日は奈良田方面に下山するということでおかでんと一緒ながらも、ゆっくり歩くので途中の大門沢小屋でさらに一泊する予定だ、と言っていた。ここに来るまでも、広河原、肩の小屋と既に2泊しており、今日が3泊目。明日さらに一泊するのだから、4泊5日の長旅だ。大変なことだが、「花とか見てられるので楽しい」とにっこりほほえんでいた。

ちなみに大門沢小屋までは6時間弱の標準コースタイム。しかも下山ルートなわけで、これを1日かけて歩くっていうのは逆に大変な部類だ。朝6時に小屋を出たとしても、普通に歩いたら昼前には目的地についてしまう。正直、暇をもてあますと思うのだが大丈夫だろうか。

こんな超ゆったりペースをとるのも、奈良田に下山しても交通の便があまり良くないからだ。奈良田からは2つのパターンがあって、

(1)身延線の下部温泉駅または身延駅までバスで出る。1日4便。所要時間90分。
(2)広河原までバスで移動し(1日5便、所要時間50分)、そこから甲府行きのバスに乗り換える。

のどちらかを選ぶことになる。密度が薄いダイヤなので、下山タイミングが悪いと奈良田で時間を相当もてあますことになる。もっとも、奈良田は温泉地。日帰り入浴施設があるので、そこでフニャフニャになるまで温泉三昧していれば良いのだけど。

広河原に出るバスに乗るということは、ますます山奥に突入ということだ。ちょっと面倒臭い。だから、実際は身延駅行きのバスを狙うことになるのだが、13:55発の次は16:20となり、これが最終便だ。農鳥小屋から奈良田までは8時間の行程であることを考えれば、16:20の便が現実解、ということになる。でも、標準コースタイムよりも遅めに歩く人にとってはこの16:20の便はちょっとプレッシャーになる時間であり、だから早々に「大門沢で一泊」という判断をするわけだ。

それくらい、明日の下山ルートは長丁場。

けがは下山時におこしやすい。疲れがたまっているし、ついついスピードが出て足下がふらつくからだ。気をつけないと。

おかでんはあらかじめ3パターンの撤退プランを計画してある。

(a)13:55奈良田温泉発のバス。15:13身延温泉駅から身延線、甲府駅乗り換えで17:51新宿駅着。
(b)15:20奈良田温泉発のバス。16:10広河原で乗り換え、18:05甲府駅経由で19:35新宿駅着。
(c)16:20奈良田温泉発のバス。18:04身延温泉駅から身延線、甲府駅乗り換えで21:06新宿駅着。

さすがに(a)という選択肢は時間的に無理だと思ってはいるけど、万が一のために。現実的には(b)かなと思っている。朝6時に小屋を出れば、14時に奈良田に下山できる。そこで1時間ほど温泉を楽しめば、ちょうど良いタイミング。広河原に戻るってのは気分的に冴えないけど、16:20のバスを待つよりははるかにましだ。

一人黙り、また一人黙り。19時頃には全員お休み体制となった。おかでんもそれに倣う。

外は雨。まいったなあ。

2014年08月06日(火) 3日目

朝早く身支度が始まる

04:24
まだ外が真っ暗なうちから、外で引き戸がゴロゴロ開く音が聞こえる。おじさんが朝食の準備を始めたらしい。3時台から既に山小屋の朝は始まっている。

朝ご飯は「5時ちょっと前」と聞いていたけど、4時10分頃になるとおじさんが寝泊まり部屋にやってきて、ランタンをともした。

「今日は天気がどうなるかわからないから、早く出た方がいいよ」

と言う。だから、朝ご飯の時間を前倒しにするから、と言う。おじさんなりの親切心だ。

「さっきまで西農鳥岳はよく見えてたんだけどな。今はもう駄目。山頂にガスが出ちゃった」

夜明け前だけど、もうガスが出てきたのか。普通、早朝は晴れていて、気温の上昇とともにガスが発生して昼頃にはガスで覆われる、というパターンだ。でもこの時点でガスが出てきてしまったということは、これから先天気悪くしてやるぜ、という犯行予告ってこったい。やれやれ。

富士山が見えた

04:27
外に出てみたら、雲が多いとはいえガスに360度覆われている、というほどではなかった。

夜明け前の空が、むしろ美しい。すかっと晴れているより、こういう方が写真を撮影しがいがあるというものだ。

おっと、富士山が見える。やっぱり富士山は立派だ。日本一の山、というのを名実ともに実感させられるシルエット。

農鳥小屋の朝ご飯

04:32
予定より30分繰り上がっての朝ご飯となった。

夕食同様、全員がお行儀良くそろっての朝食。誰一人欠員なし。

昨晩同様、どんぶりにご飯とみそ汁をよそう。朝はおかずと呼べるものはなく、つくだ煮や梅干し、そして生玉子とのりがあるだけだ。でも、これからの長丁場を乗り切るべく、これらの「ご飯の友」でがっつり食事を楽しむことができた。

昨晩同様、向かいに座っているマダムから

「あんまり食べられないから。若いんだからぜひ」

と生玉子を譲ってもらい、そのおかげでおかでんはどんぶり飯二杯目に突入ですよもう。

おかでんの場合、山に登ると必ず体重が増える。だから、朝撮影した時の顔は必ずむくんでいる。

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