
06:01
せっかくの絶景、たびたび振り返る。
間ノ岳と、北岳が美しい。
しかしその二つの頂も、そろそろ笠雲がかかってきはじめた。
天気が悪くなる予兆。
でもこっちは先行逃げ切りだ、本当に天気が悪くなる前に稜線から離れることができそうだ。楽しい稜線歩きを続けていられるのも、あと1時間程度。そこから先はひたすら長丁場の樹林帯歩きとなる。

06:03
正面に農鳥岳本峰が見えてきた。
あれが、今回の「白嶺三山縦走」の三番目の目的地。
ここから先は、下るだけになる。標高3,000メートルの天上の世界から一気に俗世間に戻ることになる。せめてあともう少し、この空間を楽しみたい。
昨晩農鳥小屋に泊まった際、同宿の登山客は
「明日農鳥岳には登りたくないなあ。せっかく間ノ岳まで登ったのに、またここまで標高下げちゃったよ」
と笑いあっていた。

06:14
先を行く単独行の人が、立ち止まって何もない山の斜面をじっと見ている。
追いついてみたら、その人が指さして「雷鳥ですよ」と教えてくれた。
雷鳥・・・?
しばらく指さされた方角を見てみるが、わからない。
雷鳥は保護色になっていてわかりにくい鳥だが、本当にわからないものだ。
1分近く悩み続けた結果、ようやくその姿を肉眼で捕らえることができた。
あ!本当だ。親鳥がいるぞ。
このあたりはハイマツ林ではないのだが、朝ご飯のためかのこのこと出てきたらしい。
カメラを構えるのだが、そうするとファインダー越しでまた雷鳥の姿を探さないといけない。結構これが大変。

06:15
大人の雷鳥がすっくと立っているということは、その近くにヒナの雷鳥が何匹かいるはずだ。しばらく周囲を伺ってみたら、いたいた、4匹だか5匹、雷鳥のヒナの姿を確認することができた。
子供がやんちゃ好きなのは人間も雷鳥も一緒で、うれしそうにあちこちぱぱぱぱっと駆けていっては何かをつまみ、また別のところに移動したりしている。
親鳥は当然、登山道でこっちを見ている人間の存在には気がついているはずだ。でも、人間の視界から避けようとはしない。経験則で、人間はおそってこない生き物だと認識しているのだろう。おかげで、こうやって雷鳥ウォッチングを楽しむことができている。人間と鳥との幸せな関係。
駅前公園にいるハトみたいに、人間にえさをねだったりという「馴れ馴れしさ」はない。適度な距離感。それが気持ちいい。
天然記念物であり稀少な生き物。山の中でお目にかかることができればラッキーだ。今回、とても得した気分になれた。雷鳥を見ることができた山歩きは、それだけでも満足度が結構違ってくる。

06:17
一匹のヒナが、岩の上に登ってあたりをきょろきょろしていた。
普通、こういう目立つところにヒナが登ってはいけない。目立ってしまい、外的の標的になるからだ。でも、親雷鳥が制止しないところをみると、今は安全であるとして許しているのだろう。
それにしてもヒナは丸々としている。いいもんいっぱい食べて太っているのだろうか。でも実際はこのもふもふのほとんどは羽毛であり、身は細いのかもしれない。雷鳥の肉って輸入ものなら一度くらい食べたことがあったと思うが、どんな味だったか、外観だったか覚えていない。
・・・と、目の前に雷鳥を見ながらにして、お皿の上に乗ったレストランの雷鳥料理を思い出す不謹慎。
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